薬剤師 × 中医薬膳師 × ペットフーディストが解説
「性格」だけで片づけない。
少しの物音で飛び上がる。
留守番になると落ち着かない。
突然吠え続ける。
家族やほかの犬に対して攻撃的になる。
こうした行動には、生まれ持った性格だけではなく、恐怖、不安、生活環境、痛み、加齢、体調など、さまざまな背景が関係していることがあります。
中医学ではさらに、「気・血・津液」や「肝・心・脾・腎」のバランスから、その子に現れている状態を考えていきます。

興奮・イライラ・不安は、行動だけでなく体調や生活環境まで含めて考えることが大切です。
犬の興奮や不安は、「興奮しているから鎮める」という一方向だけでは整理できません。
中医学では、イライラが強い「肝鬱・熱タイプ」、怖がりで落ち着かない「心神不安タイプ」、疲れや食欲低下を伴う「気血不足タイプ」など、背景の違いを見ながら漢方を考えます。
さらに、環境調整・行動ケア・食事・胃腸の状態まで一緒に整えていくことが大切です。
犬の興奮・イライラ・不安はなぜ起こる?
犬が吠える、震える、落ち着かない、噛もうとするなどの行動には、それぞれ理由があります。
「言うことを聞かない」「わがまま」と決めつけてしまう前に、その行動が何によって引き起こされているのかを考えることが重要です。
- 雷・花火・掃除機・工事など大きな音への恐怖。
- 飼い主さんと離れることへの不安。
- 知らない人や犬への警戒。
- 引っ越し・家族構成・生活時間など環境の変化。
- 運動・遊び・睡眠不足。
- 関節痛、歯痛、皮膚のかゆみなど身体的不快感。
- シニア期の視力・聴力・認知機能の変化。
- 消化器、泌尿器、神経、内分泌など身体的な問題。
これまで穏やかだった犬が急に怒るようになった場合や、触られることを突然嫌がるようになった場合には、痛みや病気が隠れていることがあります。
特に、急激な行動変化、強い攻撃性、ぐったりする、食欲低下、嘔吐・下痢、呼吸異常、ふらつきなどを伴う場合は、漢方やフードを考える前に動物病院での診察を優先してください。

中医学では「なぜ落ち着けないのか」を体質から考える
中医学では、症状だけを追うのではなく、その症状が生まれた背景を「証」として整理します。
同じ「吠える」「落ち着かない」という犬でも、体質によって考え方は変わります。
気滞タイプ
気滞=ストレスなどによって「気」の巡りが滞りやすいタイプです。
環境変化に弱い、食欲にムラがある、お腹が張る、ため息のような呼吸、落ち着きにくいなどが目安になります。
肝鬱化火・湿熱タイプ
ストレスで気が滞り、さらに熱を帯びた状態です。
興奮しやすい、怒りっぽい、赤み、暑がる、口臭、皮膚のベタつきなどを伴うことがあります。
気虚・血虚タイプ
気虚=エネルギー不足、血虚=血や栄養の不足傾向です。
疲れやすい、食が細い、毛づやが悪い、眠りが浅い、怖がりなどが目立つことがあります。
心神不安タイプ
中医学でいう「心神」は、精神活動や睡眠と深く関わる概念です。
ちょっとした刺激に驚く、そわそわする、眠りが浅い、飼い主さんから離れられないなどが目安になります。
まず「うちの子はどのタイプ?」を整理
ほどよい堂では、気虚・気滞・血虚・瘀血・陰虚・痰湿・陽虚・湿熱の8タイプから、愛犬の現在の傾向を確認できる無料セルフチェックを用意しています。
便・皮膚・毛づや・食欲・元気など、普段の小さなサインから確認できます。
興奮・イライラ・不安に考えるペット漢方7選
ここからは、犬や猫の精神的な不安定さを中医学的に考える際に候補となる代表的な漢方薬を紹介します。
大切なのは、「不安だからこの漢方」という選び方ではなく、その子の体質=証に合わせて選ぶことです。
ペットは人とは体重・代謝・感受性が異なります。
人用製剤を体重比だけで計算して与えることは避け、治療中・服薬中・持病がある場合は必ず獣医師へ相談してください。
漢方も「自然のものだから必ず安全」というわけではなく、生薬による相互作用や体質との不一致にも注意が必要です。
どんな証に用いる方剤?
肝の気が滞り、血の不足や熱を伴う「肝鬱血虚・化火」傾向を考える方剤です。
虚弱傾向がありながら、ストレスでイライラしたり、気分や食欲に波が出たりするタイプを考える際の候補になります。
単に興奮を抑えるというより、「ストレスで巡れなくなった状態」を整えていくイメージです。
どんな証に用いる方剤?
体内に強い「熱」がこもった実熱タイプに用いられる代表的な清熱剤です。
興奮が強い、イライラしやすい、暑がる、赤みが目立つなど、「熱」が前面に出ている状態を考える際の候補です。
元気がなく冷えている虚弱タイプには方向が異なるため、体質の見極めが重要です。
どんな証に用いる方剤?
体力がやや低下し、神経が過敏になって落ち着きにくい「虚証」の不安タイプを考える方剤です。
ちょっとした物音に驚く、怖がる、そわそわする、眠りが浅いなど、心身ともに消耗しているような犬で検討されることがあります。
「強く鎮める」というより、不安定になっている心身を支えながら落ち着きを取り戻していくイメージです。
どんな証に用いる方剤?
ストレスで気の流れが滞り、痰のような余分なものが絡む「気滞痰阻」タイプに用いられる方剤です。
緊張しやすい、不安感が強い、食欲にムラがある、胃腸の調子も不安定など、精神面と消化器の両方にサインがある場合に方向性が合いやすくなります。
どんな証に用いる方剤?
ストレスによる気の停滞が強く、興奮・緊張・イライラなどが目立つ状態を考える方剤です。
すぐに興奮のスイッチが入り、吠え続ける、落ち着かない、刺激への反応が大きいようなタイプで候補になります。
この方剤には「柴胡(さいこ)」が配合されています。
柴胡は中医学では、滞った気を巡らせる「疏肝」の代表的な生薬として用いられます。
どんな証に用いる方剤?
気と血の両方が不足した「気血両虚」タイプを補う代表的な方剤です。
病後・高齢・食欲低下などで体力が落ち、疲れやすく、精神的にも不安定になっている場合に、体力の土台から考える選択肢になります。
興奮を直接抑える目的というより、「そもそも心身を支える材料が不足している」というタイプに向く考え方です。
どんな証に用いる方剤?
中医学でいう「心」と「脾」が弱り、気血不足と精神的不安定が重なった「心脾両虚」を中心に考える方剤です。
疲れやすい、食欲が落ちる、眠りが浅い、不安そう、飼い主さんから離れにくいなど、「消耗+不安」が一緒に見られる場合に候補になります。
漢方的には、心を落ち着かせるだけでなく、消化吸収を担う「脾」を支えて気血を補うという考え方が特徴です。
ペット漢方で大切なのは「方剤名」より「証」
漢方では、同じ「不安」という症状でも処方が変わります。
例えば、真っ赤になって興奮するような熱タイプと、疲れて怖がりになっている虚弱タイプに、同じ方剤を使うとは限りません。
興奮・不安だけでなく、食欲、便、睡眠、暑がり・寒がり、皮膚、毛づや、年齢などを確認します。
ストレスによる気滞なのか、熱がこもっているのか、気血が不足しているのかなどを整理します。
必要に応じて漢方を検討しながら、食事、胃腸、睡眠、散歩、刺激の量、安心できる環境も一緒に整えます。
興奮した犬を「大声で叱る」のは逆効果になることも

興奮して吠えている犬を、大きな声で叱りつけて止めようとすると、恐怖や緊張をさらに高めてしまう場合があります。
恐怖や不安を伴う行動に対しては、罰を中心にするのではなく、刺激との距離を調整しながら望ましい行動を報酬で強化する方法が重視されています。
まず取り入れたい5つの対策
- 興奮の原因から一度距離を取る。
- 安心して休めるクレート・ベッド・部屋をつくる。
- 落ち着いている瞬間を褒める。
- 「おすわり」「マット」など簡単な行動へ切り替える。
- 刺激には一気に慣らさず、小さな刺激から段階的に慣らす。
特に攻撃行動がある場合は、まず人やほかの動物の安全を確保してください。
無理に抱き上げる、追い詰める、首輪をつかむなどの行為が刺激となる犬もいます。
「脾=胃腸」を整えることも、心身の土台づくり
中医学では、消化吸収を担う「脾」を、気血をつくる土台として重視します。
つまり、どれだけ良い食材や漢方を取り入れても、胃腸が弱り、十分に食べられない・消化できない状態では、からだづくりに活かしにくいと考えます。
① 栄養|からだをつくる材料。
良質なたんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルなどを毎日の食事から補います。
② 循環|必要な場所へ届ける。
中医学では「気・血・津液」が滞りなく巡ることを大切にします。
③ 吸収=腸活|食べたものを受け取る。
便、食欲、ガス、食後の状態などから胃腸の状態を確認します。
犬にも注目される「腸脳相関」
腸と脳は、神経・免疫・内分泌・腸内細菌がつくる代謝物などを介して双方向に情報をやり取りしています。
犬でも腸内細菌叢と不安・行動との関連について研究が進んでいます。
ただし、現時点では「腸活をすれば不安が治る」と言える段階ではありません。
行動ケアや必要な治療を行いながら、毎日の食事と胃腸の状態も土台の一つとして整えていく、という考え方が現実的です。
プロバイオティクス
乳酸菌など、腸内環境を支える微生物を取り入れる考え方です。
プレバイオティクス
食物繊維など、腸内細菌のエサとなる成分を取り入れる考え方です。
バイオジェニックス
腸内細菌がつくる有用成分や代謝物にも注目する考え方です。
腸のバリア
便の安定や消化状態を観察し、腸粘膜に過度な負担をかけにくい食事を考えます。
毎日のごはんから和漢・薬膳を取り入れる方法

漢方薬だけを考えるのではなく、毎日のごはんそのものを整える方法もあります。
特に、長期的な健康維持では「毎日口にするもの」の積み重ねは無視できません。
和漢みらいペットフードという選択肢
和漢みらいペットフードは、一般的な栄養バランスに加え、和漢素材や薬膳の考え方を毎日の食事に取り入れやすくしたペットフードです。
心臓・腎臓・肝臓・胃腸・皮膚・関節・体重管理など、年齢や気になるテーマから候補を整理できる点も特徴です。
ただし、「病名だけ」で決めるよりも、便、食欲、冷え、乾燥、皮膚、体重、年齢なども一緒に確認した方が、その子に合う方向を考えやすくなります。
漢方だけではなく「毎日のごはん」から整えたい方へ
薬膳・和漢の考え方を毎日の食事に取り入れたい方は、ほどよい堂の「和漢みらいペットフード」解説ページをご覧ください。
年齢・悩み・体質から選ぶポイントを整理しています。
犬が落ち着きやすい生活環境をつくる
不安や興奮が強い犬では、漢方や食事だけでなく、毎日の環境を整えることも非常に重要です。
- 散歩・食事・睡眠の時間を大きく乱さない。
- 安心してひとりになれる場所をつくる。
- テレビ・掃除機・来客など刺激の強さを調整する。
- 散歩では嗅ぐ時間を十分につくる。
- 知育玩具などで適度に頭を使う時間をつくる。
- 落ち着いている状態を褒める。
- 睡眠時間を確保する。
- 興奮する刺激を連続して与えすぎない。
「疲れさせれば眠るだろう」と激しい運動ばかり増やすより、散歩・におい嗅ぎ・遊び・休息のバランスを取る方が向いている犬もいます。
こんな場合は早めに動物病院へ
- 突然、攻撃性が強くなった。
- 触ろうとすると怒るようになった。
- 夜中に歩き回る、壁を見つめるなど行動が変わった。
- 食欲が急に低下した。
- 震え・ふらつき・けいれんがある。
- 嘔吐・下痢が続いている。
- 呼吸が苦しそう。
- 自分自身を傷つけるほど舐める・噛む。
- 人やほかの犬を実際に噛んでしまう。
特に急な行動変化では、痛みや身体疾患を先に除外することが重要です。
よくある質問
Q.犬の分離不安に漢方薬は使えますか?
中医学的な体質に合わせて漢方を検討することはあります。
ただし、分離不安は環境調整や行動療法が非常に重要なので、漢方だけで解決しようとせず、複数の方法を組み合わせて考えることが大切です。
Q.興奮しやすい犬には黄連解毒湯がよいですか?
黄連解毒湯は、熱が強い「実熱タイプ」に方向性が合う方剤です。
興奮していても、冷えや疲労が強い虚弱タイプには合わない可能性があります。
「興奮」という症状だけで方剤を決めないことが重要です。
Q.怖がりな犬にはどの漢方を考えますか?
神経過敏で虚弱傾向がある場合は桂枝加竜骨牡蛎湯、疲れや食欲低下を伴う場合は加味帰脾湯や十全大補湯などが候補になることがあります。
実際には年齢・便・食欲・暑がり・寒がりなどを合わせて証を判断します。
Q.人間用の漢方薬を犬に与えてもいいですか?
自己判断では与えないでください。
犬や猫は人間と体重・代謝・感受性が異なり、人用量を単純に体重換算する方法は適切ではありません。
持病や服薬との相互作用もあるため、獣医師へ相談してください。
Q.フードだけで犬の不安は改善しますか?
食事は心身を支える重要な土台ですが、フードだけですべての行動問題が改善するとは限りません。
原因となる刺激の管理、生活環境、運動、休息、行動ケア、必要な治療などと組み合わせて考えることが大切です。
まとめ|「落ち着かせる」より、その子の背景を見る
犬の興奮、イライラ、不安、分離不安、吠え、攻撃的な行動には、さまざまな背景があります。
中医学では、気滞、熱、気血不足、心神不安など、その子が今どのような状態にあるのかを整理してから漢方を考えます。
加味逍遙散、黄連解毒湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、半夏厚朴湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、十全大補湯、加味帰脾湯などは、それぞれ異なる「証」に使われる方剤です。
そして、漢方だけではなく、栄養・循環・吸収=腸活、生活環境、休息、行動ケアを組み合わせることで、その子に合った整え方が見つけやすくなります。
まず1つ始めるなら「体質を知る」ことから
「漢方が気になるけれど、うちの子が何タイプなのかわからない」という方は、無料の体質セルフチェックから始めてみてください。
そのうえで、毎日の食事にも和漢・薬膳の考え方を取り入れたい場合は、和漢みらいペットフードの選び方をご覧いただけます。
参考情報
本記事は中医学・漢方の考え方に加え、獣医行動学および犬の腸脳相関に関する情報を参考に構成しています。
・ Merck Veterinary Manual:Diagnosis of Behavior Problems in Animals
・ American Veterinary Society of Animal Behavior:Position Statements
・ Gut-Brain Axis Impact on Canine Anxiety Disorders
免責事項:
本記事はペットの健康維持に関する一般的な情報提供を目的としており、獣医師による診断・治療の代わりとなるものではありません。
症状が強い場合、急激な変化がある場合、治療中・服薬中の場合は、かかりつけの獣医師へご相談ください。




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