「排尿するとツーンと痛む」。
「トイレに行ったのに、まだ尿が残っている感じがする」。
「何度もトイレに行きたくなる」。
このような排尿トラブルに使われる代表的な漢方薬のひとつが、五淋散(ごりんさん)です。
ただし、排尿痛や頻尿があるからといって、すべてのケースで五淋散が適しているわけではありません。
細菌性膀胱炎では抗菌薬による治療が必要になることがあり、発熱や腰背部痛などを伴う場合には腎盂腎炎なども考える必要があります。
この記事では、薬剤師・中医薬膳師の視点から、五淋散の効能、生薬構成、向いている体質、猪苓湯・竜胆瀉肝湯との違い、注意点まで整理します。
さらに、元記事でも紹介していた長嶺荒人先生のクリニカルパールについて、中医学の「熱淋」という考え方と結びつけながら詳しく解説します。
- 排尿すると痛い・しみる。
- 尿を出してもスッキリしない。
- トイレが近い。
- 尿が濁っている。
- 尿路に熱感や違和感がある。
- 排尿トラブルが長引いたり、繰り返したりしている。
医療用の五淋散では、主な効能・効果として「頻尿・排尿痛・残尿感」が認められています。
市販薬の五淋散製剤では、製品によって「尿のにごり」も効能・効果に含まれます。
中医学的には、とくに「膀胱湿熱(ぼうこうしつねつ)=下半身の尿路に余分な水分と熱がこもったタイプ」を考えると理解しやすい処方です。
排尿症状だけでなく、次のような症状がある場合は医療機関への受診を優先してください。
- 発熱や悪寒がある。
- 腰・背中・わき腹に痛みがある。
- 強い倦怠感がある。
- 吐き気・嘔吐がある。
- 肉眼で分かる血尿が続く。
- 尿がほとんど出ない。
- 症状が急速に悪化している。
- 妊娠中、または妊娠している可能性がある。
- 男性で排尿痛や発熱がある。
- 膀胱炎のような症状を何度も繰り返している。
日本泌尿器科学会では、頻尿・排尿痛・残尿感などに発熱を伴う場合、女性では腎盂腎炎、男性では前立腺炎などの可能性があるため、早めの受診を勧めています。
「五淋散・猪苓湯・竜胆瀉肝湯のどれが自分に合うのか分からない」。
「病院を受診した方がよいのかも含めて相談したい」。
そんな場合は、薬を購入する前に体質と症状を整理することが大切です。
※緊急性が疑われる症状についてはLINE相談ではなく、医療機関への受診を優先してください。
膀胱炎とは?頻尿・排尿痛・残尿感が起こる理由
急性膀胱炎は、とくに女性に多い尿路感染症です。
尿道から細菌が膀胱へ入り込み、膀胱の粘膜に炎症が起こることで発症します。
代表的な症状は、頻尿・排尿痛・残尿感・尿のにごり・血尿などです。
とくに排尿の終わり頃に痛みを感じる「排尿終末時痛」は、急性膀胱炎でよくみられる症状のひとつです。
膀胱炎と抗菌薬の関係
細菌性の急性膀胱炎では、医療機関で尿検査などを行い、必要に応じて抗菌薬による治療が行われます。
漢方薬は、抗菌薬の代わりとして自己判断で細菌感染を治療するものではありません。
「漢方だから抗菌薬はいらない」と考えるのではなく、感染症として治療すべき状態なのか、感染後に排尿症状が残っているのか、別の原因による頻尿なのかを分けて考えることが重要です。
五淋散とは?頻尿・排尿痛・残尿感に使われる漢方薬
五淋散は、尿路の不快な症状に用いられてきた漢方処方です。
医療用のツムラ五淋散エキス顆粒では、効能・効果として頻尿、排尿痛、残尿感が認められています。
医療用製剤の使用目標では、比較的体力が中等度、またはやや低下した人で、慢性的に経過した尿路の炎症に伴って頻尿・残尿感・排尿痛などがみられる場合に用いることが示されています。
ここが大切です。
「膀胱炎という病名だから五淋散」ではなく、症状・体質・経過を含めて選ぶことが漢方の基本です。
医療用添付文書にも「証(体質・症状)を考慮して投与すること」と記載されています。
中医学では「膀胱湿熱・熱淋」タイプとして考える
中医学では、排尿時の熱感や痛み、尿の濁り、尿意切迫などがみられる状態を「膀胱湿熱」として捉えることがあります。
「湿」は、体内に停滞した余分な水分や重だるさを生みやすい要素です。
「熱」は、赤み・炎症・灼熱感・濃い尿などにつながる要素として考えます。
この「湿」と「熱」が下半身、つまり「下焦」に集まり、膀胱の働きを妨げている状態が膀胱湿熱です。
八綱弁証で表現すると、典型的な急性期では「裏・熱・実」寄りの状態と考えます。
ただし、症状を何度も繰り返す人では、気虚=エネルギー不足、血虚=栄養・潤い不足、腎虚=加齢や生命力の低下などの「虚」が背景に重なっていることがあります。
「熱淋」とは?性感染症の淋病とは別の言葉
古典的な中医学では、排尿トラブルを「淋証」と呼び、いくつかのタイプに分類して考えてきました。
| 分類 | 中医学的なイメージ |
|---|---|
| 熱淋 | 熱感・排尿痛・尿意切迫などが目立つタイプ。 |
| 石淋 | 結石のような状態を連想するタイプ。 |
| 気淋 | 気の巡りの停滞を伴う排尿異常。 |
| 膏淋 | 尿の濁りなどが目立つタイプ。 |
| 労淋 | 疲労や虚弱を背景に繰り返しやすいタイプ。 |
※古典的な「五淋」の分類と現代医学の病名は1対1で対応するものではありません。
五淋散を構成する11種類の生薬
五淋散は、11種類の生薬から構成されます。
単に「尿を出す生薬だけ」を集めた処方ではないところが、五淋散の特徴です。
| 生薬 | 中医学的な役割のイメージ |
|---|---|
| 黄芩(オウゴン) | 清熱=余分な熱を冷ます方向。 |
| 山梔子(サンシシ) | 清熱=こもった熱を外へ逃がす方向。 |
| 車前子(シャゼンシ) | 利水・通淋=尿の流れを整える方向。 |
| 沢瀉(タクシャ) | 利水=余分な水分をさばく方向。 |
| 木通(モクツウ) | 利水・通淋=下焦の水の停滞を整える方向。 |
| 滑石(カッセキ) | 清熱利湿=湿と熱を外へ出す方向。 |
| 茯苓(ブクリョウ) | 利水しながら脾=胃腸の働きを支える方向。 |
| 甘草(カンゾウ) | 処方全体を調和させる方向。 |
| 当帰(トウキ) | 補血・活血=血を補い巡らせる方向。 |
| 地黄(ジオウ) | 補血・滋陰=血や潤いを補う方向。 |
| 芍薬(シャクヤク) | 養血・緩急=血を養い緊張を和らげる方向。 |
つまり五淋散は、「熱を冷ます」「湿を外へ出す」「尿の通りを整える」という瀉法だけでなく、「血や潤いを支える」という補う方向も組み合わされた処方と見ることができます。
長嶺荒人先生のクリニカルパール|五淋散をどう見る?
長嶺荒人先生の見解では、五淋散は中医学でいう「熱淋」に用いる処方として位置づけられています。
熱淋は、排尿時の熱感・痛みなど、尿路に炎症性の症状がみられる状態を考える際の中医学的な概念です。
長嶺先生は、五淋散には清熱・利湿方向の生薬が多く含まれている一方で、当帰・地黄・芍薬など補う方向の生薬も配合されている点を重視しています。
そのため、中医学的には急性の排尿トラブルだけでなく、症状が長引いているケースを考える際にも応用しやすい処方という見方ができます。
ポイント①「攻めるだけ」の漢方ではない
黄芩・山梔子・車前子・沢瀉・木通・滑石などは、余分な熱や湿を外へ出す方向に働く生薬として整理できます。
一方、当帰・地黄・芍薬は血や潤いを補う方向です。
つまり五淋散は「炎症を冷まして終わり」という処方ではなく、消耗した部分への配慮も組み込まれていることが特徴です。
ポイント②慢性的な排尿トラブルでも「証」を見る
長嶺先生の見解を踏まえると、慢性期では単純に「熱を取ればよい」とは限りません。
疲れやすい、冷える、胃腸が弱い、尿トラブルを何度も繰り返すといった人では、「湿熱」の奥に「気虚」「血虚」「腎虚」などが隠れていないかを考える必要があります。
ポイント③血尿では別処方も視野に入る
長嶺先生は血尿を伴う場合について、猪苓湯と四物湯を組み合わせた猪苓湯合四物湯などの考え方にも言及しています。
猪苓湯合四物湯は、排尿トラブルに「血・潤いの不足」が重なったような状態で検討される処方です。
ただし、肉眼的な血尿は結石・感染症・腫瘍など漢方だけでは判断できない原因でも起こります。
血尿がある場合は「どの漢方を使うか」より先に、必要に応じて泌尿器科で原因を確認することが重要です。
排尿痛があるから五淋散。
頻尿だから猪苓湯。
漢方はそれだけで選ぶと、体質とのズレが起こることがあります。
ほどよい堂では、症状だけでなく、冷え・疲労・胃腸・睡眠・ストレス・舌の状態なども含めて「証」を組み立てます。
五淋散・猪苓湯・竜胆瀉肝湯はどう違う?
排尿痛や頻尿に使われる漢方は五淋散だけではありません。
代表的なのが猪苓湯(ちょれいとう)と竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)です。
清熱+利湿+補血。
排尿痛・残尿感・頻尿などがあり、炎症性の症状が長引くケースまで考えやすい処方です。
利水+清熱+滋陰。
尿が出にくい、残尿感、排尿痛、口渇など「水の流れ」の悪さが目立つケースで使われます。
清熱利湿の力が比較的強い処方です。
体力が比較的あり、下腹部の熱感・痛み、尿の濁りなど「熱」が強いタイプで検討されます。
| 比較 | 五淋散 | 猪苓湯 | 竜胆瀉肝湯 |
|---|---|---|---|
| 主な方向性 | 清熱・利湿+補血 | 利水・清熱+滋陰 | 強めの清熱・利湿 |
| 排尿痛 | ○ | ○ | ○ |
| 残尿感 | ○ | ○ | ○ |
| 頻尿 | ○ | ○ | 体質・製剤による |
| 尿が出にくい | 体質による | ○ | 体質による |
| 強い熱感 | ○ | △~○ | ◎ |
| 口の渇き | 体質による | 選択の手掛かりになる | 熱証ならみられることがある |
| 体力 | 中等度~やや低下が目安 | 比較的体力を問わず使いやすい | 比較的体力がある人向け |
※実際の適否は、使用する製剤の添付文書および個々の「証」によって判断します。
簡単セルフチェック|あなたはどのタイプ?
A|五淋散を考えやすいタイプ
- 排尿痛がある。
- 残尿感がある。
- 頻尿がある。
- 尿が濁ることがある。
- 尿路の違和感が長引きやすい。
- 強すぎる実熱だけではなく、少し疲れも感じている。
B|猪苓湯を考えやすいタイプ
- 尿が出にくい。
- 尿量が少なく感じる。
- 残尿感・排尿痛がある。
- 口が渇くことがある。
- 体力の強弱がはっきりしない。
C|竜胆瀉肝湯を考えやすいタイプ
- 下腹部の熱感が強い。
- 尿の濁りが目立つ。
- 排尿時の灼熱感が強い。
- 比較的体力がある。
- 陰部のかゆみ・炎症なども伴っている。
これはあくまで「選び方を理解するための目安」です。
実際には複数のタイプが重なることがあります。
五淋散と「ボーコレン」は同じもの?
小林製薬の「ボーコレン」は、漢方処方の五淋散を使用した一般用医薬品です。
メーカー公式情報では、体力中等度の人の排尿痛・残尿感・頻尿・尿のにごりを効能・効果としています。
「ドラッグストアで見たボーコレンと五淋散は別の薬?」と思われる方も多いですが、処方名としては五淋散をベースにした製品です。
ただし、医療用漢方と一般用医薬品では1日量やエキス量などが異なる場合があるため、同じ名前だから同じ量という意味ではありません。
まず商品情報・価格を確認したい方はこちらからご覧いただけます。
服用中の薬がある方、妊娠中の方、症状が繰り返している方は、購入前に医師・薬剤師へ相談することをおすすめします。
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五淋散の副作用・注意点
漢方薬は「自然のものだから副作用がない」というわけではありません。
五淋散にも注意すべき副作用があります。
甘草を含むため偽アルドステロン症に注意
五淋散には甘草(カンゾウ)が含まれています。
甘草を含む漢方薬を重複して服用すると、体質や服用量によっては低カリウム血症や偽アルドステロン症、ミオパチーなどのリスクが問題となる場合があります。
むくみ、体重増加、血圧上昇、手足のだるさ、筋力低下、こむら返りなど気になる変化が現れた場合は、服用を続けず医師・薬剤師へ相談してください。
他の漢方薬との甘草重複にも注意
「漢方A+漢方B」のように複数の処方を自己判断で組み合わせると、甘草など同じ生薬の摂取量が増えることがあります。
漢方を併用するときほど、処方名だけではなく「中に何が入っているか」を確認することが大切です。
繰り返す尿トラブルは「急性期」と「土台」を分けて考える
ほどよい堂では、排尿トラブルを考えるときも「今起きている問題」と「繰り返しやすい背景」を分けて考えます。
まず数日|急性期は感染症を見逃さない
急に排尿痛・頻尿・血尿などが出た場合は、まず細菌感染や結石など現代医学的に治療すべき状態がないかを確認します。
この時期に「体質改善だけで何とかしよう」と受診を遅らせないことが大切です。
約3週間|生活習慣を見直す
症状が落ち着いた後は、トイレを長時間我慢していないか、水分不足になっていないか、睡眠不足や過労が続いていないか、便秘がないかなどを見直します。
心臓や腎臓などの病気で水分制限を受けていない方では、極端な水分不足を避けることも大切です。
一方で「水を大量に飲めば治る」と考えて無理に飲み続ける必要はありません。
約3か月|繰り返す人は「なぜ繰り返すのか」を見る
慢性的に繰り返す場合は、単に湿熱を取るだけではなく、冷え、疲労、胃腸の弱り、ストレス、睡眠、加齢なども含めて全体像を考えます。
中医学では、消化吸収を担う「脾=土」が弱ると、気血を十分につくれなくなると考えます。
そのため、急性症状が落ち着いた後の養生では、胃腸の状態を整え、身体を支える材料をきちんと吸収できる状態をつくることも大切です。
ほどよい堂の養生の3本柱
①栄養=身体をつくる材料を補う。
②循環=栄養と酸素を必要なところへ届ける。
③吸収=食べたものを受け取れる胃腸を整える。
ただし、食事・腸活・薬膳は細菌性膀胱炎に対する抗菌薬治療の代わりではありません。
急性期と日頃の養生を分けて考えることが大切です。
毎日の養生|まず1つ変えるなら「胃腸に負担をかけない」
慢性的な疲れや胃腸の弱りがある人は、「何を足すか」だけでなく「きちんと消化・吸収できるか」も大切です。
- 1口30回を目安によく噛む。
- 味噌汁・野菜スープなど温かい汁物を定番にする。
- 海藻・きのこ・豆類などの食物繊維を少しずつ取り入れる。
- 過度な飲酒や刺激物を続けすぎない。
- 睡眠不足・過労を放置しない。
中医学でいう「脾」を整えることは、現代的に言えば「食べるだけでなく、消化して吸収できる状態をつくる」ことです。
無理な制限を増やすより、まず毎日続けられるひとつから変えていきましょう。
よくある質問|五淋散Q&A
五淋散は、頻尿・排尿痛・残尿感などの排尿症状に用いられる漢方薬です。
ただし、細菌性膀胱炎そのものを自己判断で漢方だけで治療するという意味ではありません。
感染が疑われる場合は医療機関での評価を優先してください。
五淋散は清熱・利湿に加えて補血方向の生薬を含みます。
猪苓湯は利水を中心に、阿膠によって滋陰・止血方向も持つ処方です。
尿量、口渇、血尿、熱感、体力などを含めて選びます。
はい。
小林製薬のボーコレンは、五淋散を使用した一般用医薬品です。
医療用の五淋散とは用量などが異なる場合があります。
慢性的な排尿症状で使用されることもありますが、「長く飲めばよい」という意味ではありません。
症状が改善しない場合や長期服用を考える場合には、医師・薬剤師に適否を確認してください。
状況によって併用されることはあります。
ただし、服用中の薬・基礎疾患・症状によって判断が変わるため、処方医または薬剤師に確認してください。
まとめ|「膀胱炎だから五淋散」ではなく証と受診判断が大切
- 五淋散は頻尿・排尿痛・残尿感などに用いられる漢方薬。
- 中医学では膀胱湿熱・熱淋の考え方と関連づけて理解しやすい。
- 11生薬で清熱・利湿だけでなく補血方向も組み込まれている。
- 長嶺荒人先生は「熱淋」を中心に、慢性化した状態への応用についても説明している。
- 猪苓湯は利水+滋陰、竜胆瀉肝湯はより実熱・湿熱が強い人で検討される。
- 発熱・腰背部痛・強い全身症状などがあれば漢方より受診を優先する。
- 繰り返す場合は急性期の治療と、体質・生活習慣の立て直しを分けて考える。
「五淋散を買おうと思っているけれど、本当に自分に合う?」。
「猪苓湯との違いが分からない」。
「何度も同じ症状を繰り返している」。
そんな方は、一度体質から整理してみてください。
宮崎県川南町の漢方薬局「ほどよい堂」では、薬剤師・中医薬膳師・薬膳素材専門士が、中医学と現代医学の両面からお話を伺います。
「漢方×薬膳×腸活」の視点で、漢方薬だけに偏らず、食事や生活習慣も含めて優先順位を整理します。
全国から相談可能です。
緊急性がある症状はLINE相談ではなく医療機関への受診を優先してください。



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