「トイレが近い」「排尿すると痛い」「出したのに残っている感じがする」。
そんな排尿トラブルで使われる代表的な漢方薬のひとつが、猪苓湯(ちょれいとう)です。
猪苓湯は、単に「尿をたくさん出す漢方」ではありません。
中医学では、下腹部に余分な水分と熱が停滞した水熱互結・湿熱下注タイプを中心に、水の巡りを整えながら熱を冷まし、同時に津液(体を潤す水分)を守る方剤として考えます。
一方で、頻尿なら誰にでも猪苓湯が合うわけではありません。
冷えて夜間尿が多い「腎陽虚=温める力が不足したタイプ」や、加齢に伴う頻尿、前立腺疾患、尿路感染症などでは、別の対応が必要になることがあります。
この記事では、薬剤師の視点から猪苓湯の効果・構成生薬・向いているタイプ・尿路結石でのクリニカルパール・副作用・市販薬の選び方まで整理します。
排尿痛や頻尿に加えて、発熱・悪寒・強い倦怠感・腰や背中の痛み・吐き気・嘔吐がある場合は、腎盂腎炎など上部尿路の感染症も考えられます。
早めに医療機関を受診してください。
男性、妊娠中、小児、糖尿病や腎疾患がある方、血尿が続く方、何度も再発する方も自己判断だけで済ませず、医師・薬剤師へ相談することをおすすめします。
漢方は病名だけでなく、冷え・熱・口渇・尿の状態・体力・胃腸・年齢などを合わせて選びます。
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購入を前提とした相談ではありません。
猪苓湯とは?排尿痛・残尿感・頻尿に使われる漢方薬
猪苓湯(ちょれいとう)は、『傷寒論』『金匱要略』を原典とする古典的な漢方処方です。
「水の巡りを整える」生薬を中心に、熱を冷ます滑石と、潤いを補う阿膠を組み合わせています。
一般用のツムラ漢方猪苓湯エキス顆粒Aでは、体力に関わらず使用でき、排尿異常があり、ときに口が渇く人の「排尿困難・排尿痛・残尿感・頻尿・むくみ」が効能・効果として示されています。
| 方剤名 | 猪苓湯(ちょれいとう) |
|---|---|
| 漢方的な治則 | 利水・清熱・通淋・滋陰 |
| 目安となる症状 | 排尿痛、残尿感、尿が出にくい、頻尿、むくみ、口渇など |
| 中医学的イメージ | 水熱互結・湿熱下注+津液不足 |
| 構成生薬 | 猪苓、茯苓、沢瀉、滑石、阿膠 |
漢方の「利水」は、体内の水分の偏りや停滞を整えるという伝統医学上の考え方です。
西洋医学で使用する利尿薬の薬理作用と、そのまま同一視するものではありません。
膀胱炎とは?女性に多い理由と猪苓湯の位置づけ
急性膀胱炎では、頻尿、排尿時痛、残尿感、下腹部の不快感、血尿などがみられることがあります。
女性は男性より尿道が短く、肛門周囲の細菌が膀胱へ侵入しやすいため、尿路感染症を起こしやすいと考えられています。
細菌感染が関係する膀胱炎では、症状や尿検査の結果などに応じて抗菌薬による治療が必要になる場合があります。
したがって、「膀胱炎=猪苓湯だけで治す」と考えるのではなく、感染症としての評価と、漢方的な体質評価を分けて考えることが大切です。
発熱がある膀胱炎症状は要注意
日本泌尿器科学会では、頻尿・排尿痛・残尿感などの排尿症状に発熱を伴う場合、腎臓や前立腺などに細菌感染を起こしている可能性があるとして、早めの受診を勧めています。
特に、発熱+腰背部痛は腎盂腎炎でみられる代表的な組み合わせのひとつです。
漢方を試す前に医療機関で評価を受けることを優先してください。
中医学でみる猪苓湯タイプ|「水」と「熱」が下半身に停滞
中医学では、同じ「頻尿」「残尿感」という症状でも、その背景によって選ぶ漢方薬が変わります。
猪苓湯を考えやすいのは、主に水熱互結・湿熱下注タイプです。
① 証を組み立てる
猪苓湯タイプでは、次のような組み合わせが目安になります。
- 排尿時に痛みや違和感がある
- 尿が出にくい、すっきり出ない
- 残尿感がある
- 尿の回数が増えている
- 口が渇く
- 下半身がむくむ
- 尿路に熱感・刺激感がある
② 背景を考える
中医学では、膀胱には尿をため、必要なタイミングで排出する「気化」という働きがあると考えます。
ここに余分な「湿」と「熱」が停滞すると、尿の流れが悪くなったり、排尿時の刺激感が出たりすると捉えます。
さらに猪苓湯には阿膠が含まれています。
水をさばくだけでなく、津液=体を潤す水分を守る方向が加わっている点が特徴です。
③ 治則|利水+清熱+滋陰
そこで猪苓湯では、余分な水を巡らせる「利水」、こもった熱を冷ます「清熱」、必要な潤いを守る「滋陰」を組み合わせます。
猪苓湯は、完全な「寒証」よりも、下焦に熱や水分停滞がありながら津液も消耗しているケースを考えやすい処方です。
手足が強く冷え、夜間頻尿が中心で腰膝がだるいような「腎陽虚=温める力不足タイプ」では、牛車腎気丸や八味地黄丸など別の方剤を検討することがあります。
猪苓湯を構成する5つの生薬|「流す・冷ます・潤す」の組み合わせ
| 生薬 | 読み | 漢方的な役割 |
|---|---|---|
| 猪苓 | チョレイ | 余分な水分をさばき、尿の流れを整える方向 |
| 茯苓 | ブクリョウ | 水分代謝を整えながら、脾=胃腸の働きを支える方向 |
| 沢瀉 | タクシャ | 下半身に停滞した余分な水分をさばく方向 |
| 滑石 | カッセキ | 熱を冷ましながら尿の通りを整える方向 |
| 阿膠 | アキョウ | 血や津液を補い、乾燥・消耗を防ぐ方向 |
猪苓・茯苓・沢瀉・滑石という「水を動かす」グループに、阿膠という「潤いを守る」生薬を組み合わせているのがポイントです。
そのため、ただ水分を外へ出すだけではない処方構成になっています。
猪苓湯のクリニカルパール|臨床医はどう使っている?
「クリニカルパール」とは、経験豊富な臨床医が診療経験の中で蓄積してきた、実践的な処方の考え方です。
標準治療や診療ガイドラインそのものではありませんが、漢方を使い分ける際のヒントになります。
新見正則先生の漢方治療の考え方では、尿管結石に「芍薬甘草湯+猪苓湯」という組み合わせが紹介されています。
芍薬甘草湯は「急激に起こる筋肉のけいれんや痛み」に用いられる代表的な方剤です。
一方の猪苓湯は尿路の水分停滞や排尿障害に使われます。
つまり、臨床的には「芍薬甘草湯で緊張や疝痛へ対応し、猪苓湯で排石しやすい環境を支える」という発想です。
実際、尿路結石に猪苓湯と芍薬甘草湯を使用した過去の臨床報告もあります。
また、日本東洋医学会の漢方治療エビデンスレポートには、体外衝撃波結石破砕術後に猪苓湯合四物湯と芍薬甘草湯を用いた臨床試験も収載されています。
松田邦夫先生の臨床的な考え方として、現行記事では細菌性膀胱炎では抗菌薬を標準治療とし、症例によって漢方薬を補助的に組み合わせるという考え方が紹介されています。
旧記事では釣藤散を併用する臨床経験も紹介していますが、これはすべての膀胱炎に一般化できる治療法ではありません。
細菌感染が疑われる場合に抗菌薬を漢方だけへ置き換えることは避け、医療機関で適切に評価してもらうことが大切です。
結石の大きさ・位置・閉塞の有無、腎機能、発熱の有無などによって治療方針は変わります。
激しい疝痛や血尿がある場合は、まず泌尿器科での診断を優先してください。
「頻尿」という1つの症状だけでは、漢方薬は決められません。
熱があるのか、冷えているのか、尿量は多いのか少ないのか、口渇やむくみがあるのかまで確認します。
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猪苓湯・五淋散・牛車腎気丸の違い|頻尿だけで選ばない
排尿トラブルに使われる漢方薬は猪苓湯だけではありません。
代表的な3処方を大まかに比較すると、次のようになります。
| 方剤 | 考えやすいタイプ | 主な目安 |
|---|---|---|
| 猪苓湯 | 水熱互結・湿熱+津液不足 | 排尿痛、残尿感、尿が出にくい、口渇、頻尿、むくみ |
| 五淋散 | 湿熱下注・熱感が比較的強いタイプ | 排尿痛、尿の濁り、刺激感、頻尿など |
| 牛車腎気丸 | 腎虚、とくに加齢や下半身の衰え | 夜間頻尿、腰脚のだるさ、冷え、しびれ、むくみなど |
こんな選び方は避けたい
- 頻尿だから、とりあえず猪苓湯
- 膀胱炎っぽいから、毎回同じ漢方を自己判断で服用
- 高齢者の夜間頻尿をすべて「水滞」と考える
- 血尿があるのに漢方だけで長期間様子を見る
- 発熱しているのに受診せず、市販漢方だけで対応する
漢方の強みは「病名が同じでも体質によって処方を変える」ことにあります。
逆にいえば、病名だけで選ぶと漢方らしい使い方から離れてしまいます。
尿路結石に猪苓湯は使える?排石との関係
猪苓湯は尿路結石に伴う排尿症状などで用いられてきた漢方薬です。
過去には猪苓湯と芍薬甘草湯を用いて自然排石を検討した臨床報告もあります。
ただし、尿路結石の治療では結石のサイズ、位置、尿路閉塞、感染の有無、腎機能が重要です。
漢方薬を飲んでいれば必ず石が出るという意味ではありません。
尿路結石で尿の流れが妨げられているところに感染を合併すると、重症化することがあります。
高熱、悪寒、強い腰背部痛、吐き気などがある場合は、早急に医療機関へ相談してください。
繰り返す排尿トラブルを「漢方×薬膳×腸活」で考える
急性の感染症は必要な医療を優先します。
そのうえで、「なぜ何度も調子を崩しやすいのか」という体の土台は、日々の栄養・循環・消化吸収まで含めて考えることが大切です。
細胞や粘膜を維持する材料として、タンパク質、良質な脂質、ビタミン、ミネラルなどが不足していないか確認します。
冷えや運動不足、ストレス、睡眠不足などで巡りが滞っていないかを考えます。
食べたものを消化・吸収し、必要な栄養を受け取れる胃腸の状態も大切です。
中医学では胃腸を「脾=土」と考える
中医学でいう「脾」は、食べ物から気・血・津液を生み出す土台です。
土が弱ると、水をうまく動かせず「湿」がたまりやすくなると考えます。
そのため、慢性的にむくみや重だるさ、胃もたれ、軟便などがある人では、膀胱だけを見るのではなく脾胃=消化吸収の状態も一緒に整えていきます。
まず取り入れたい日常の習慣
- 医師から水分制限を受けていなければ、水やお茶をこまめに飲む
- 尿意を長時間我慢しない
- 体を極端に冷やさない
- 甘い飲料を毎日飲むなら、一部を水・お茶などへ置き換える
- 一口30回を目安によく噛み、脾=胃腸の負担を減らす
- 味噌汁や野菜スープを毎日の定番にする
- 海藻・きのこ・豆・発酵性食物繊維などを少しずつ取り入れる
腸活では、善玉菌を取り入れるプロバイオティクス、菌のエサとなるプレバイオティクス、菌がつくる有用成分を活かすバイオジェニックスという3方向から考える方法があります。
ただし、腸活や食事は急性膀胱炎に対する抗菌治療の代わりではありません。
「治療」と「再び崩れにくい土台づくり」を分けて考えることが重要です。
猪苓湯の副作用・注意点|妊娠中や子どもは?
副作用
一般用猪苓湯では、服用後に発疹・発赤・かゆみなどが現れた場合、副作用の可能性があるため服用を中止し、医師・薬剤師・登録販売者へ相談するよう注意されています。
妊娠中
妊婦または妊娠していると思われる方は、服用前に医師・薬剤師・登録販売者へ相談することが示されています。
「漢方だから妊娠中でも必ず安全」とは考えないようにしてください。
子ども
小児用量が設定されている製品もありますが、年齢によって用量・注意事項が異なります。
特に乳幼児の排尿トラブルは原因確認が大切なので、自己判断で長期間服用させることは避けてください。
犬・猫への使用について
人用の猪苓湯を犬や猫へ自己判断で与えることはおすすめしません。
尿石症や排尿困難は、尿路閉塞など緊急性の高い状態を含むため、まず獣医師による診察を受けてください。
猪苓湯はどこで買える?病院・薬局・通販で入手可能
猪苓湯は、医療機関で処方される医療用漢方製剤のほか、ドラッグストアや薬局、インターネット通販で購入できる一般用医薬品もあります。
市販薬を選ぶ場合は、商品ごとに効能・効果、年齢別用量、服用回数、添加物、使用上の注意を確認してください。
市販の猪苓湯を通販で確認できます。
購入前に、自分の症状に合うか迷う場合は無料相談をご利用ください。
※上記はアフィリエイトリンクを含みます。
※医薬品は必ず添付文書を読み、用法・用量を守って使用してください。
「猪苓湯を買う前に体質を確認したい」という方へ
排尿痛や残尿感があるからといって、すべての人が猪苓湯タイプとは限りません。
例えば「冷えるとトイレが近い人」と「熱感があり尿が濃い人」では、中医学的な方向性がほぼ反対になることもあります。
ほどよい堂では、症状だけでなく気・血・津液、寒熱、虚実、脾・肝・腎、食事、腸内環境、睡眠、ストレスなどを確認しながら、現在の状態を整理します。
宮崎県川南町の漢方薬局「ほどよい堂」では、店舗・LINE・LINE電話・Zoomで漢方相談を行っています。
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猪苓湯についてよくある質問
猪苓湯は排尿痛・残尿感・頻尿などの排尿異常に用いられる漢方薬です。
ただし細菌性膀胱炎では抗菌薬などが必要になることがあるため、感染症そのものの治療を漢方だけで置き換えるものではありません。
頻尿の原因は膀胱炎、過活動膀胱、前立腺疾患、加齢、糖尿病、冷え、ストレスなどさまざまです。
猪苓湯は特に排尿異常に口渇や水分停滞などが組み合わさるタイプを考えやすく、頻尿だけでは判断できません。
医療現場では併用されることがありますが、現在服用している薬や腎機能などによって確認が必要です。
処方薬を服用している場合は医師・薬剤師へ知らせてください。
尿路結石に伴う排尿症状や排石を目的として使用されてきた歴史があり、猪苓湯と芍薬甘草湯を組み合わせた臨床報告もあります。
ただし結石の大きさや位置、尿路閉塞、感染の有無によって治療方針が変わるため、泌尿器科での評価が重要です。
体質や原因によって異なるため、一律に「何日」とは決められません。
特に膀胱炎が疑われる場合、症状が悪化しているのに市販漢方だけで長期間様子を見ることは避けてください。
妊娠中または妊娠している可能性がある方は、服用前に医師・薬剤師・登録販売者へ相談してください。
漢方薬であっても自己判断での服用は避けるのが安全です。
「猪苓湯でいいのか分からない」。
「膀胱炎を何度も繰り返している」。
「夜間頻尿や冷えも一緒に相談したい」。
そんな段階からでも大丈夫です。
参考情報・出典
- 日本泌尿器科学会|排尿症状を伴う発熱がある
- ツムラ|ツムラ漢方猪苓湯エキス顆粒A
- PMDA|猪苓湯 添付文書等に記載すべき事項
- 国立国会図書館|尿路結石に対する猪苓湯および芍薬甘草湯の排出促進効果
- 新見正則『フローチャート漢方薬治療』シリーズ
※本記事は一般的な健康情報を提供するものであり、個別の診断・治療を目的とするものではありません。
症状が強い場合、長引く場合、発熱や血尿などを伴う場合は医療機関へご相談ください。



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