起き上がった瞬間にクラッとする。
めまいと一緒に動悸やのぼせ、吐き気を感じる。
こうした症状に使われる漢方薬のひとつが、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)です。
ただし、めまいなら誰にでも苓桂朮甘湯が合うわけではありません。
漢方では、めまいの背景にある「水」と「気」の偏りまで見ながら方剤を選びます。
この記事では、薬剤師・中医薬膳師の視点から、苓桂朮甘湯がどのようなめまいに向いているのか、五苓散・真武湯・半夏白朮天麻湯との違い、専門医のクリニカルパール、副作用や注意点まで分かりやすく整理します。
次のような症状を伴う場合は、漢方薬を試して様子を見るのではなく、速やかな医療機関受診を優先してください。
- 突然、支えなしでは立てないほど強くふらつく。
- 顔や片側の手足に麻痺・しびれがある。
- ろれつが回らない、言葉が出にくい。
- 物が二重に見える、視野がおかしい。
- これまで経験したことのない激しい頭痛を伴う。
- 意識がおかしい、反応が鈍い。
めまいは「回る・ふわふわする・立つとクラッとする」など、症状によって漢方の選び方が変わります。
ほどよい堂では、体質・症状・服用中のお薬まで確認しながら一緒に整理します。
購入を決める前のご相談でも大丈夫です。
苓桂朮甘湯は、どんな漢方薬?
苓桂朮甘湯は、茯苓(ぶくりょう)・桂皮(けいひ)・朮(じゅつ)・甘草(かんぞう)を基本とする、比較的シンプルな構成の漢方薬です。
製品によって「朮」に白朮または蒼朮が使われるなど、構成に違いがあります。
一般用医薬品では、体力中等度以下で、めまい・ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸を伴う人の「立ちくらみ・めまい・頭痛・耳鳴り・動悸・息切れ・神経症・神経過敏」などに用いられます。
気逆=本来下へ巡るはずの「気」が上へ突き上がる状態。
苓桂朮甘湯は、この「水の偏り」と「上へ突き上がる気」が重なったタイプを考えると理解しやすい方剤です。
苓桂朮甘湯が合いやすい「めまい」の特徴
上を向く。
起き上がる。
頭の位置が変わったときに症状が出やすいタイプです。
朝ベッドから起きる。
このような動作でふらつきやめまいを感じます。
顔が急に熱くなる。
気が上へ突き上がるような感覚を伴うタイプです。
頭が重い。
胃のあたりがポチャポチャする。
天候変化で調子を崩しやすいなど、水滞を疑うサインが参考になります。
中医学的には「痰飲・水滞が上部を乱し、気逆を伴うタイプ」と捉えると分かりやすいでしょう。
八綱弁証では、強い熱証というよりも、虚実が混在しながら水分代謝の乱れが中心になっているケースで検討されます。
「水滞+気逆」とは?めまいを漢方で考える
① 水滞=水が多いのではなく「偏っている」
漢方でいう水滞・水毒は、単純に水分を摂りすぎているという意味ではありません。
必要な場所へ水分を運び、不要な水分を処理する働きが乱れている状態を指します。
中医学では、この水分代謝に深く関係するのが「脾」です。
脾は現代的に言えば、食べたものを消化吸収し、全身へ利用できる形に変えていく働きを含む概念です。
土である脾が弱ると、津液の運化が滞り、「痰湿」や「水滞」が生じやすくなると考えます。
② 気逆=下へ降りるはずの気が上へ突き上がる
気逆では、のぼせ・動悸・息苦しさ・不安感・頭痛・めまいなど、上半身に症状が集まりやすくなります。
苓桂朮甘湯では、桂皮と甘草の組み合わせが、この「上衝する気」を整える方向に働くと漢方では考えます。
つまり苓桂朮甘湯は、単なる「めまい止め」というより、水の偏りを整えながら、上へ突き上がる気を鎮めるというイメージの方剤です。
BPPV・メニエール病と苓桂朮甘湯の関係
良性発作性頭位めまい症(BPPV)の場合
BPPVは、頭の向きを変えたときに突然めまいが起こる代表的な疾患です。
内耳にある耳石が半規管へ入り込むことなどが原因と考えられています。
このため、BPPVでは診断した半規管・病型に応じた耳石置換法などが重要な治療となります。
漢方薬だけでBPPVそのものを治す、と考えるのは適切ではありません。
一方で、頭位変化で悪化するめまいや、発作後にふらつきが続く場合などに、症状・体質をみながら苓桂朮甘湯が臨床で検討されることがあります。
メニエール病の場合
メニエール病では、反復するめまいに加えて、難聴・耳鳴り・耳閉感などの聴覚症状を伴うことが特徴です。
内リンパ水腫が病態に関与するため、漢方でいう「水滞」とイメージを重ねて説明されることがあります。
ただし、メニエール病では聴力検査などを含めた耳鼻咽喉科での診断と治療が大切です。
「めまいがあるから苓桂朮甘湯」という自己判断ではなく、標準治療と漢方を適切に使い分けることが重要です。
専門医の「クリニカルパール」から学ぶ苓桂朮甘湯
クリニカルパールとは、経験豊富な臨床家が日々の診療から蓄積してきた実践的な視点やコツです。
エビデンスや添付文書とは役割が異なりますが、漢方薬を「どのような患者像で使い分けるか」を理解する参考になります。
苓桂朮甘湯と四物湯を合わせた処方は「連珠飲(れんじゅいん)」と呼ばれます。
連珠飲は江戸時代の医師・本間棗軒が考案した処方として知られています。
これは、単に「めまい」だけを見るのではなく、血虚=血の不足傾向や冷え、月経状態まで含めて証を組み立てるという漢方らしい視点です。
なお、漢方薬同士の併用は甘草などの重複も生じるため、自己判断ではなく医師・薬剤師へ相談してください。
土倉先生は、めまいと水毒との関連を重視し、苓桂朮甘湯・真武湯・五苓散・半夏白朮天麻湯などの利水系方剤をめまいのタイプによって使い分けています。
「グルグル」「ふわふわ」「立つとクラッとする」という違いを細かく確認することが、漢方選びでは大切だと分かります。
苓桂朮甘湯を考える目安として、「気の上衝と水の逆上」「尿利の減少」「心下部の膨満感」などを参考にする視点があります。
同じ症状名でも、体力・胃腸の状態・水分代謝まで見て処方を変えることが漢方の特徴です。
病院での診断や標準治療を置き換えるものではありません。
特に強いめまい・新しく始まっためまい・神経症状を伴うめまいでは、まず原因を確認してください。
苓桂朮甘湯の4つの生薬を分かりやすく解説
| 生薬 | 漢方的な役割 | イメージ |
|---|---|---|
| 茯苓 ぶくりょう | 利水・健脾・安神 | 余分な水分の偏りを整え、脾胃や精神面を支える。 |
| 朮 じゅつ | 健脾・燥湿・利水 | 胃腸を支えながら、水湿をさばく。 |
| 桂皮 けいひ | 温陽・通陽・気逆を整える | 冷えを散らし、上へ突き上がる気を巡らせる。 |
| 甘草 かんぞう | 補気・調和 | 処方全体をまとめながら、気を支える。 |
「苓・桂・朮・甘」という4つの生薬名が、そのまま処方名になっているため「苓桂朮甘湯」と呼ばれます。
五苓散・真武湯・半夏白朮天麻湯との違い
「めまいに使う漢方」は苓桂朮甘湯だけではありません。
むしろ、めまいの質と体質を見分けることが重要です。
| 方剤 | 証・タイプ | めまいの特徴 | 一緒に見たい症状 |
|---|---|---|---|
| 苓桂朮甘湯 | 水滞+気逆タイプ | 頭位性・起立性のめまい。 | 動悸、のぼせ、頭重、ふらつき。 |
| 五苓散 | 水分偏在タイプ | 天候や水分バランスと連動しやすい。 | 頭痛、むくみ、口渇、尿量変化など。 |
| 真武湯 | 陽虚=冷えとエネルギー不足タイプ | ふわふわ・グラグラする動揺性めまい。 | 冷え、倦怠感、下痢、足腰の弱り。 |
| 半夏白朮天麻湯 | 脾虚+痰湿タイプ | 胃腸虚弱を背景にしためまい。 | 食欲不振、疲れ、頭重、吐き気。 |
| 当帰芍薬散 | 血虚+水滞タイプ | 冷え・貧血傾向を伴うふらつき。 | 月経トラブル、冷え、むくみ。 |
立つとクラッとする。
歩くとふわふわする。
雨の日に頭痛と一緒に悪化する。
胃が弱く疲れるとめまいが出る。
この違いだけでも、候補となる漢方薬は変わります。
「症状は似ているけれど、自分の証が分からない」という方は少なくありません。
ほどよい堂では、中医学の体質だけでなく、服薬状況・食事・胃腸・睡眠・ストレスまで確認して優先順位を整理します。
苓桂朮甘湯の副作用・注意点
「漢方薬=天然だから副作用がない」というわけではありません。
苓桂朮甘湯にも注意すべき副作用があります。
甘草による偽アルドステロン症に注意
苓桂朮甘湯には甘草が含まれます。
甘草を含む医薬品を重ねて服用したり、長期間服用したりすると、まれに偽アルドステロン症や低カリウム血症に関連したミオパチーなどが起こることがあります。
むくみ、体重増加、血圧上昇、手足のだるさ、筋肉痛、脱力感、こわばりなどが現れた場合は服用を続けず、医師・薬剤師へ相談してください。
特に相談してから使いたい方
- 高血圧・心臓病・腎臓病などで治療中の方。
- 他の漢方薬や甘草含有製剤を服用している方。
- 利尿薬・ステロイドなど複数の薬を服用している方。
- 妊娠中・授乳中の方。
- 高齢者や体力が大きく低下している方。
- 長期間継続して服用したい方。
市販薬・薬局製剤は、それぞれの商品に記載された用法・用量を守ってください。
医療用漢方薬の服用方法や医師の臨床的な使用方法を、市販薬へそのまま当てはめないことも大切です。
苓桂朮甘湯を購入したい方へ
下記リンクから、苓桂朮甘湯の煎じ薬を確認できます。
リンク先の商品は、茯苓・桂皮・白朮・甘草で構成された薬局製剤です。
「頭位変化・立ち上がりでめまいが起こる」「動悸やのぼせもある」といった方で、苓桂朮甘湯を検討している場合はこちらから確認できます。
※商品ページに記載された効能・効果、用法・用量、使用上の注意をご確認ください。
※症状が強い場合や診断がついていない場合は、購入より先に医療機関を受診してください。
再発しやすいめまいは「脾=土」から生活も整える
発作そのものの治療とは別に、繰り返しやすい不調では毎日の土台を整えることも大切です。
ほどよい堂では「栄養・循環・吸収=腸活」の3本柱で身体を考えます。
① 吸収|まず脾胃を疲れさせない
中医学では、胃腸は「脾=土」として全身の気血津液を生み出す中心と考えます。
土が弱ると食べ物から十分な気血を作りにくく、水湿も停滞しやすくなります。
まずは一口30回程度を目安によく噛み、冷たい飲食物を続けすぎないことから始めてみましょう。
味噌汁や野菜スープなど、胃腸に負担をかけにくい温かな汁物を毎日の定番にするのも一案です。
② 栄養|細胞を作る材料を不足させない
カロリーは足りていても、タンパク質・良質な脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維などが不足している「新型栄養失調」の状態では、身体の回復を支える材料が不足します。
肉・魚・卵・豆類・海藻・きのこ・野菜などを偏りなく取り入れることが基本です。
③ 循環|軽く動いて巡らせる
急性のめまいがあるときに無理な運動は必要ありません。
症状が落ち着き、医師から運動制限を受けていなければ、散歩や軽いストレッチなどから徐々に身体を動かしていきましょう。
3日で体感の変化を確認し、3週間で生活習慣を整え、3か月かけて体調の土台を見直す。
慢性的な不調では、このような時間軸で無理なく続けることも大切です。
よくある質問|苓桂朮甘湯とめまい
Q. 苓桂朮甘湯は、どんなめまいに使われますか?
一般用医薬品では、体力中等度以下で、めまい・ふらつきがあり、ときにのぼせや動悸を伴う人の立ちくらみ、めまい、頭痛、耳鳴りなどに用いられます。
漢方的には「水滞+気逆」をひとつの目安として考えます。
Q. グルグル回るめまいなら苓桂朮甘湯でいいですか?
必ずしもそうではありません。
回転性めまいにはBPPV・メニエール病・前庭神経炎などさまざまな原因があり、脳血管障害との鑑別が必要になる場合もあります。
初めての強いめまいでは、まず原因を確認することが大切です。
Q. BPPVは苓桂朮甘湯だけで治せますか?
BPPVでは、病型に応じた耳石置換法などが重要な治療です。
苓桂朮甘湯は頭位性のめまいに臨床で検討されることがありますが、耳石置換法や専門医による診断を置き換えるものではありません。
Q. 五苓散と苓桂朮甘湯は何が違いますか?
どちらも水分バランスの乱れを考える方剤ですが、苓桂朮甘湯では「水滞」に加えて動悸・のぼせなどの「気逆」が重要な目安になります。
五苓散は天候変化、頭痛、むくみ、口渇、尿量変化などを伴う水分偏在タイプで検討されることがあります。
Q. 苓桂朮甘湯に副作用はありますか?
あります。
甘草を含むため、まれに偽アルドステロン症やミオパチーなどが起こることがあります。
むくみ、血圧上昇、体重増加、脱力感、筋肉痛などが現れた場合は服用を中止し、医師・薬剤師へ相談してください。
まとめ|「めまいの名前」ではなく「めまいのタイプ」を見る
苓桂朮甘湯は、めまいなら誰にでも同じように使う漢方薬ではありません。
頭の位置を変えたときに起こる。
立ち上がるとクラッとする。
動悸やのぼせを伴う。
水分バランスの乱れを感じる。
このような「水滞+気逆」のサインが、処方を考える重要なヒントになります。
一方で、冷えてふわふわするなら真武湯。
胃腸虚弱が強ければ半夏白朮天麻湯。
天候や水分偏在が中心なら五苓散。
同じめまいでも、証が違えば選ぶ漢方も変わります。
ほどよい堂では、薬剤師・中医薬膳師の視点から、症状・体質・胃腸・食事・睡眠・ストレス・服薬状況まで確認します。
漢方薬だけでなく、薬膳・腸活を含めた「続けやすい養生」まで一緒に整理します。
※医療機関で治療中の方は、主治医の治療を優先してください。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。



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