イライラする。
疲れて何もする気になれない。
眠っているのに頭がすっきりしない。
そんなとき、私たちは「心の問題」と考えがちです。
しかし、心と体は別々に動いているわけではありません。
脳や神経も、毎日の食事から得られるたんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラルなどを材料として働いています。
さらに近年は、腸内環境と脳が双方向に影響し合う「腸―脳相関」も注目されています。
この記事では、薬剤師・中医薬膳師の視点から、メンタルヘルスと栄養の関係を現代栄養学・腸活・中医学の3方向からわかりやすく整理します。
メンタルヘルスと栄養は関係する?まず知っておきたい結論
食生活とメンタルヘルスには関連があると考えられています。
ただし、「バナナを食べればうつが治る」「魚を食べれば不安が消える」といった単純な関係ではありません。
近年の研究では、野菜・果物・魚・豆・全粒穀物・ナッツ・良質な油などを組み合わせた食事パターンと、メンタルヘルスとの関連が数多く検討されています。
一方で、食事介入研究の結果にはばらつきがあり、うつ病そのものに対する治療効果については、まだ確実性の高い結論が出ていない部分もあります。
そのため、食事は「治療の代わり」ではなく、睡眠・運動・医療・休養などと組み合わせながら心身の土台を支えるものとして考えるのが現実的です。
「特定の栄養素を大量に摂る」よりも、主食・主菜・副菜をそろえ、食材の種類を増やすことを優先しましょう。
厚生労働省・農林水産省の「食事バランスガイド」でも、主食・副菜・主菜・乳製品・果物を組み合わせる考え方が基本になっています。
なぜ食事が心の状態に関係するの?5つの視点
1.脳も「食べたもの」を材料にして働いている
脳は非常に多くのエネルギーを必要とする臓器です。
神経細胞や神経伝達物質が正常に働くためには、エネルギーだけでなく、たんぱく質・脂質・ビタミン・ミネラルなど多様な栄養素が関わります。
カロリー自体は足りていても、加工食品・菓子・甘い飲み物などに偏ると、たんぱく質・良質な脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維・フィトケミカルが不足しやすくなります。
ほどよい堂では、このような状態を分かりやすく「新型栄養失調」と表現しています。
2.神経伝達物質をつくるにも栄養が必要
セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の代謝には、アミノ酸のほか、ビタミンB群や鉄など複数の栄養素が関与します。
だからといって、原料となる食品を一つ食べれば神経伝達物質が単純に増えるわけではありません。
例えばバナナにはトリプトファンなどが含まれますが、「バナナ=セロトニンが直接増える食品」と考えるのは単純化しすぎです。
食事全体のバランスを整える中で利用するとよいでしょう。
3.血糖値の大きな変動が心身の負担になることも
甘い飲み物や菓子だけで食事を済ませると、糖質に偏った食事になりやすくなります。
空腹感や疲労感が強い人ほど、糖分で急いでエネルギーを補給したくなることがあります。
完全に禁止する必要はありません。
甘味を摂るなら、飲み物として頻繁に摂るよりも食後に少量を「噛んで食べる形」にする。
水・お茶・無糖飲料・薄めの味噌汁などへ少しずつ置き換える。
このくらいから始める方が続けやすいでしょう。
4.腸と脳は「腸―脳相関」でつながっている
腸と脳は、自律神経・免疫・内分泌・腸内細菌がつくる代謝物などを介して双方向に影響し合っています。
これを「腸―脳相関」と呼びます。
プロバイオティクスやプレバイオティクスとメンタルヘルスに関する研究も増えていますが、菌株や対象者による違いが大きく、現段階では医療の代わりになるものではありません。
腸活は、食事・睡眠・運動・ストレスケアと一緒に行う「土台づくり」と考えるのがよいでしょう。
5.食事・睡眠・運動・ストレスは互いにつながっている
夜更かしすると甘いものが欲しくなる。
疲れると料理をする気力がなくなる。
食生活が乱れると胃腸の調子まで悪くなる。
胃腸が不調になるとさらに食べられなくなる。
実際の生活では、一つの原因だけで心身の状態が決まるわけではありません。
そのため、栄養だけを完璧にするのではなく、睡眠・運動・休養まで含めて整えていくことが重要です。
メンタルヘルスを支える食事|まず意識したい5つの食品グループ
元の記事では「おすすめ食材TOP5」として紹介していましたが、2026年版ではランキングではなく「組み合わせる食品グループ」として考えます。
どれか一つを大量に食べるより、少しずつ種類を増やすことが大切です。
① 魚|たんぱく質と脂質を一緒に摂りやすい
魚は良質なたんぱく質の供給源です。
サバ・イワシ・サンマなどの青魚にはDHAやEPAなどのn-3系脂肪酸も含まれます。
「魚がメンタルを治す」と考える必要はありませんが、肉だけに偏らず、魚・卵・大豆・肉をローテーションすると食事全体の栄養バランスを整えやすくなります。
しらす・いりこ・ししゃもなど、骨まで食べられる小魚はカルシウムなども摂りやすく、一物全体の食べ方にもつながります。
② 野菜・果物|ビタミン・ミネラル・食物繊維を補う
野菜や果物は、ビタミン・ミネラル・食物繊維・ポリフェノールなどを摂るための重要な食品です。
色の違う野菜を組み合わせると、さまざまな栄養成分を摂りやすくなります。
「毎日サラダを作るのは大変」という人は、味噌汁や野菜スープでも構いません。
海藻・きのこ・豆類まで一緒に入れれば、腸活にもつながります。
③ 玄米・雑穀・蕎麦・オートミールなどの穀類
精製度の低い穀類には、白米や精製された小麦だけでは不足しやすい食物繊維やビタミン・ミネラルが含まれています。
ただし、胃腸が弱い人に「玄米100%」を無理に勧める必要はありません。
白米に玄米や雑穀を少量混ぜるところから始めても十分です。
消化力に合わせることが、長く続けるコツです。
④ オリーブオイル・魚・ごまなどの良質な脂質
脂質は細胞膜などを構成する大切な栄養素です。
「脂質=悪いもの」ではありません。
揚げ物や加工食品ばかりに偏るのではなく、魚、オリーブオイル、ごま、ナッツなどを食事の中へ無理なく取り入れていきましょう。
⑤ ナッツ・豆・種実類|少量で栄養を補いやすい
ナッツ類には脂質・たんぱく質・ミネラル・食物繊維などが含まれます。
間食として菓子だけを食べる習慣がある場合は、無塩ナッツなどへ一部を置き換える方法もあります。
ただし、エネルギー密度が高いため「健康にいいから」と大量に食べる必要はありません。
アレルギーがある方は避けてください。
「腸を整える」ことから考えるメンタルケア
中医学の「脾」と現代の腸活は、共通点の多い考え方です。
中医学では、食べ物を消化吸収し、気や血の材料をつくる働きを「脾」が担うと考えます。
「脾は後天の本」とされ、生まれた後の体を支える重要な臓腑です。
ほどよい堂では、この「脾=土」を整えることを健康づくりの中心に置いています。
どれだけ良いものを食べても、消化吸収できなければ十分に活かしにくいからです。
腸活は3方向から考える
| 考え方 | 役割 | 食品例 |
|---|---|---|
| プロバイオティクス | 腸内環境に関わる微生物を摂る考え方。 | 味噌、納豆、ヨーグルト、発酵食品など。 |
| プレバイオティクス | 腸内細菌のエサとなる成分を摂る考え方。 | 野菜、海藻、きのこ、豆、オーツ麦など。 |
| バイオジェニックス | 菌そのものだけでなく、菌が産生する成分などにも注目する考え方。 | 発酵食品などを含め研究が進められています。 |
まずは「菌を入れること」だけに集中せず、その菌が暮らしやすい環境をつくることも意識しましょう。
味噌汁に、わかめ・きのこ・豆腐・根菜を入れる。
納豆に海藻や薬味を足す。
白米へ少量の雑穀を混ぜる。
このような小さな積み重ねが、現実的な腸活です。
中医学ではメンタルの不調をどう考える?代表的な4タイプ
中医学では、「落ち込む」「不安」「イライラ」だけを見て全員を同じ体質とは考えません。
食欲・便通・睡眠・冷え・ほてり・疲れ・舌・月経など全身の状態から「証」を組み立てます。
| 体質タイプ | 特徴 | 養生の方向 |
|---|---|---|
| 気虚・脾虚 =エネルギー不足・消化力低下タイプ | 疲れやすい、やる気が出ない、食欲がない、食後に眠い、軟便になりやすい。 | 補気健脾。 胃腸に負担をかけず、温かく消化しやすい食事を中心にする。 |
| 気滞 =巡りが滞るストレスタイプ | イライラ、ため息、胸やお腹の張り、気分の波、ストレスで食欲が変わる。 | 疏肝理気。 香りのある食材、軽い運動、深呼吸、休養を取り入れる。 |
| 血虚 =栄養・潤い不足タイプ | 不安感、眠りが浅い、動悸、顔色が悪い、目の疲れ、乾燥感など。 | 養血安神。 たんぱく質・鉄などを含む食事を偏りなく摂り、睡眠を確保する。 |
| 痰湿 =余分な水分や重だるさタイプ | 体が重い、頭がすっきりしない、むくみ、胃もたれ、眠気が強い。 | 健脾化湿。 甘い飲み物・食べ過ぎを減らし、胃腸を休ませる。 |
実際には「気虚+気滞」「血虚+陰虚」など、複数のタイプが重なることが少なくありません。
そのため、「自分は気滞だからこの食材だけ」と決めつけず、全身の状態を見ることが大切です。
ほどよい堂が考える「栄養・循環・吸収」の3本柱
① 栄養|細胞は食べたものからつくられる
まず必要なのは材料です。
たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラル、食物繊維、フィトケミカルなどを偏りなく摂ることが基本です。
② 循環|栄養と酸素を届ける
食べた栄養素は、体内を巡って必要な場所へ届けられます。
一日中座りっぱなしではなく、散歩・ストレッチ・軽い筋トレなどを取り入れることも大切です。
③ 吸収=腸活|食べるだけでなく受け取れる体へ
胃腸が疲れているのに、サプリメントや健康食品だけを大量に追加しても負担になることがあります。
まずは食事の量・噛み方・食べる時間・便通などを見直しましょう。
一口30回をひとつの目安に、よく噛んで食べることもおすすめです。
咀嚼は消化のスタートであり、中医学的には「脾」を助ける食べ方と捉えることができます。
ほどよい堂では、漢方・薬膳・腸活を組み合わせ、食欲・便通・睡眠・疲れ・冷え・ストレスなどから体質を整理しています。
いきなり商品を購入する必要はありません。
まずは現在の状態を整理するところからご相談いただけます。
今日から始めるなら「完璧な食事」よりこの5つ
- 朝食または昼食に、卵・魚・納豆・豆腐・肉などのたんぱく質を1品加える。
- 1日1回、海藻・きのこ・豆・野菜を入れた味噌汁またはスープを食べる。
- 甘い飲み物を毎日飲んでいるなら、そのうち1回を水・お茶・無糖飲料へ置き換える。
- 食事は急いで飲み込まず、一口30回を目安によく噛む。
- 食事だけで何とかしようとせず、睡眠・散歩・休養も一緒に見直す。
3週間で「これが普通」に。
3か月で「自分の土台」へ。
養生は、一度に変えるより続けられる形にすることが大切です。
休養も栄養と同じくらい大切
疲労や心の負担は、食事不足だけから生まれるものではありません。
仕事、人間関係、情報過多、睡眠不足、暑さ・寒さ、病気、長時間の座位など、さまざまなストレスが重なります。
休養も「寝るだけ」と考えず、複数の方法を組み合わせましょう。
- 睡眠時間を確保する。
- 何もしない時間をつくる。
- 10~20分ほど散歩する。
- ストレッチやヨガで体を動かす。
- 人やペットと過ごす。
- 音楽・読書・園芸など好きなことをする。
- スマートフォンやニュースから意識的に離れる。
- 料理や創作など、別のことへ注意を向ける。
サプリメントは必要?食事との順番を考えよう
DHA・EPA、ビタミンD、鉄、亜鉛、マグネシウム、プロバイオティクスなど、メンタルヘルスとの関係が研究されている栄養素や成分は多数あります。
しかし「メンタルにいいらしい」という理由だけで、すべての人が同じサプリメントを摂る必要はありません。
食事内容、持病、服用薬、検査値、妊娠・授乳の有無などによって適否が変わります。
とくに医薬品を服用している方は、サプリメントやハーブとの相互作用にも注意が必要です。
高用量を自己判断で長期間使用する前に、医師・薬剤師などへ確認してください。
ほどよい堂のオンラインショップでは、薬膳茶など日常生活へ取り入れやすい養生商品をご案内しています。
商品だけで何とかするのではなく、食事・睡眠・腸活と組み合わせてご利用ください。
食事だけで抱え込まないで|医療機関へ相談した方がよい目安
「眠れない状態が続く」「食事がほとんど取れない」「何も楽しめない」「自分を傷つけたい・消えてしまいたい気持ちがある」などの場合は、早めの相談が必要です。
厚生労働省では、全国共通の「こころの健康相談統一ダイヤル」も案内しています。
電話番号は0570-064-556です。
受付時間は地域によって異なります。
緊急性が高い場合や、自分自身の安全を保つことが難しい場合は、119番など緊急の支援を利用してください。
よくある質問|メンタルヘルスと食事
「これ一つ」という食品はありません。
魚・肉・卵・大豆、野菜・果物、海藻・きのこ、穀類、良質な脂質などを組み合わせ、食事全体の質を上げることを優先しましょう。
バナナにはトリプトファンやビタミンB6などが含まれますが、食べたバナナがそのまま脳内セロトニンへ変わるわけではありません。
食事全体を整える中の一食品として利用しましょう。
腸と脳が相互に影響する「腸―脳相関」は研究が進んでいる分野です。
プロバイオティクスなどの研究もありますが、すべての人に同じ効果が得られるとは限りません。
発酵食品だけに頼らず、食物繊維・睡眠・運動なども一緒に整えることが大切です。
必須ではありません。
胃腸が弱い人では、玄米が負担になることもあります。
白米に雑穀を少量混ぜたり、蕎麦・オートミールなど別の食品を利用したりして、自分に合う方法を選びましょう。
自己判断で抗うつ薬などを中止してはいけません。
食事は心身の健康を支える重要な要素ですが、医療の代わりではありません。
薬の変更や中止は、必ず処方医と相談してください。
まとめ|心を整える食事は「特別な食品」より毎日の土台から
メンタルヘルスと栄養には関係があると考えられています。
しかし、大切なのは「○○を食べれば治る」と考えることではありません。
魚・卵・大豆などからたんぱく質を摂る。
野菜・海藻・きのこ・豆を増やす。
良質な脂質を取り入れる。
味噌汁やスープを毎日の定番にする。
よく噛んで胃腸を助ける。
睡眠と運動も一緒に整える。
こうした小さな積み重ねが、心と体を支える土台になります。
吸収する。
巡らせる。
心の養生も、まずは「土台」から。
同じ「疲れた」「気分が落ちる」という症状でも、その背景は一人ひとり異なります。
ほどよい堂では、漢方・薬膳・腸活の視点から体質と生活習慣を一緒に整理しています。
参考情報・参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「食事バランスガイド(基本編)」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-03-007 - 厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」
厚生労働省公式ページ - Abukmail E, et al. Moderate- to Long-Term Effect of Dietary Interventions for Depression and Anxiety: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med. 2025.
PubMed - Diet quality and depression risk: A systematic review and meta-analysis of prospective studies. 2025.
PubMed - Asad A, et al. Effects of Prebiotics and Probiotics on Symptoms of Depression and Anxiety in Clinically Diagnosed Samples: Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Nutr Rev. 2025.
PubMed
本記事は健康情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療を行うものではありません。
症状が強い場合、長期間続く場合、服薬中の場合は医師・薬剤師などの専門家へご相談ください。
執筆・監修:河邊甲介
薬剤師・中医薬膳師・薬膳素材専門士・ペットフーディスト
漢方薬局「ほどよい堂」代表



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