七物降下湯(しちもつこうかとう)は、身体が比較的虚弱で、高血圧に伴って「のぼせ・肩こり・耳鳴り・頭が重い」といった症状がある方に用いられる漢方薬です。
血圧の数字だけを見るのではなく、「どのような体質で、どのような症状が一緒に出ているか」を確認することが大切です。
中医学的にみると、血虚(けっきょ=身体を養う血が不足したタイプ)を背景に、陽気が上へ偏った状態を考えるケースがあります。
「疲れやすいのに顔はのぼせる」「ふわふわする」「耳鳴りや頭重がある」といった一見アンバランスな症状が、処方を考えるヒントになります。
- 七物降下湯が向いている「証・体質」がわかる。
- 高血圧の薬と七物降下湯の役割の違いがわかる。
- 長嶺荒人先生のクリニカルパールを中医学的に読み解ける。
- 七物降下湯の7つの生薬の役割がわかる。
- 購入前に専門家へ相談した方がよいケースがわかる。
漢方は、同じ「高血圧」という診断名でも体質によって選び方が変わります。
ほどよい堂では、薬剤師・中医薬膳師の視点から、症状・体質・服用中のお薬まで確認してご提案しています。
七物降下湯とは?まず知っておきたい効能・効果
医療用の七物降下湯は、「身体虚弱の傾向のあるもの」の高血圧に伴う随伴症状に用いられます。
具体的には、のぼせ、肩こり、耳鳴り、頭重などが対象です。
つまり、七物降下湯を考えるときの重要なポイントは、単に「血圧が高い」ということではありません。
「虚弱傾向」と「高血圧に伴う症状」が組み合わさっているかを見ることが大切です。
大切なポイント。
七物降下湯は、医師から処方されている降圧薬の代わりとして自己判断で使用するものではありません。
すでに高血圧治療を受けている方は、処方薬を勝手に中止・減量せず、医師や薬剤師へ相談してください。
2025年版ガイドラインで確認|高血圧の基準と目標血圧
「健診の受診勧奨基準が変わったから、高血圧の基準も160/100mmHgになった」と誤解されることがあります。
しかし、高血圧の診断基準そのものが160/100mmHgへ変更されたわけではありません。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| 診察室血圧での高血圧診断 | 140/90mmHg以上が基準。 |
| 家庭血圧 | 家庭で継続的に測ることが重要。 |
| 2025年版ガイドラインの降圧目標 | 原則として診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満。 |
高血圧は自覚症状が乏しいまま進行することがあるため、「頭痛がないから大丈夫」「のぼせがないから大丈夫」とは限りません。
家庭血圧を継続して記録し、医療機関で評価してもらうことが基本になります。
早めの受診を優先してほしいケース。
未治療で160/100mmHg以上の血圧が続く場合は、医療機関への受診を優先してください。
また、突然の激しい頭痛、胸痛、息苦しさ、片側の手足の麻痺、ろれつが回らない、意識がおかしいなどの症状がある場合は、漢方選びよりも緊急性の評価が優先されます。
七物降下湯が合いやすいのはどんな人?
七物降下湯は、どちらかというと「力があり余って血圧が高い人」というより、身体の土台が弱りながら上半身に症状が出ている人を考える処方です。
- 比較的体力がない。
- 疲れやすい。
- 顔色があまり良くない。
- 高血圧を指摘されている。
- 顔や頭ののぼせを感じる。
- 頭が重い。
- 肩こりがある。
- 耳鳴りが気になる。
- ふわふわするような感覚がある。
- 加齢や慢性的な消耗を感じている。
すべてに当てはまる必要はありません。
重要なのは、血圧の数字だけではなく「身体全体の傾向」を組み合わせて判断することです。
中医学で読み解く七物降下湯|「血虚+肝陽上亢・肝陽化風」タイプ
中医学の言葉で整理すると、七物降下湯は「血虚を背景として、肝の陽が上へ高ぶった状態」を考えると理解しやすくなります。
血虚=身体を養い、潤す「血」が不足したタイプ
中医学の「血(けつ)」は、西洋医学でいう血液だけを意味する言葉ではありません。
身体や目、筋肉、皮膚、精神活動などを養う働きまで含めた概念です。
血虚になると、顔色がすぐれない、疲れやすい、ふらつく、目が疲れる、眠りが浅いなどが現れやすいと考えます。
なお、「血虚=貧血」という意味ではありません。
血液検査で貧血がなくても中医学的に血虚と判断することがありますし、貧血が疑われる場合には血液検査による評価が必要です。
肝陽上亢・肝陽化風=上半身に陽気が偏った状態
土台となる陰血が不足すると、相対的に陽気を抑えにくくなり、頭や顔など身体の上部に症状が現れることがあります。
- 頭痛。
- 頭重感。
- めまい・ふらつき。
- 耳鳴り。
- のぼせ。
- イライラ。
- 目の充血。
中医学ではこのような状態を「肝陽上亢」や、さらに動きの症状を伴う場合には「肝陽化風」などと表現します。
長嶺荒人先生の見解では、七物降下湯は中医学的に「血虚の肝陽化風」に用いる漢方薬として捉えられています。
血が不足して身体を十分に養えない一方、陽気が上へ偏ることで、ふわふわする感覚や頭部の症状が現れるという考え方です。
また長嶺先生は、血虚の背景を考えるうえで「脾」の働きを重視されています。
中医学には「脾は気血生化の源」という考えがあり、食べたものを消化吸収し、気血を生み出す土台として脾胃を位置づけます。
そのため、血虚タイプでは漢方薬だけを見るのではなく、「きちんと食べられているか」「胃腸で消化吸収できているか」という視点も重要になります。
八綱弁証でみると「虚を土台に、上部に熱・陽亢が現れるタイプ」
八綱弁証で大きく整理すると、「裏証」を中心として、身体の根底には「虚」があり、一方で頭部には熱や陽亢のような症状が現れている状態として考えることができます。
「疲れているのにのぼせる」「身体は弱っているのに頭だけ高ぶる」という、一見矛盾して見える状態がポイントです。
七物降下湯を構成する7つの生薬
七物降下湯は名前のとおり7種類の生薬から構成されています。
四物湯を構成する4生薬を土台に、黄耆・釣藤鈎・黄柏を加えた処方です。
| 生薬 | 中医学的なイメージ |
|---|---|
| 芍薬(シャクヤク) | 血を養い、筋肉の緊張などを整える方向に働く生薬。 |
| 当帰(トウキ) | 血を補いながら巡りを支える代表的な生薬。 |
| 地黄(ジオウ) | 陰血を補い、身体を養う方向に働く生薬。 |
| 川芎(センキュウ) | 血の巡りを支え、頭部の不調にも用いられる生薬。 |
| 黄耆(オウギ) | 気を補い、虚弱傾向を支える生薬。 |
| 釣藤鈎(チョウトウコウ) | 上へ高ぶった肝陽を鎮める方向に用いられる生薬。 |
| 黄柏(オウバク) | 余分な熱を冷ます方向に働く生薬。 |
ポイントは、単純に身体を冷やすだけでも、単純に血を補うだけでもないことです。
不足している「血」を補いながら、上へ偏った陽気や熱を調整するという組み合わせになっています。
七物降下湯と四物湯の関係
七物降下湯には、当帰・川芎・芍薬・地黄という「四物湯」の骨格が含まれています。
四物湯は「血を補い、巡らせる」代表的な基本方剤です。
そこへ気を補う黄耆、上部の陽亢を鎮める釣藤鈎、熱を冷ます黄柏を加えることで、「血虚を背景に頭部へ症状が現れている状態」まで対応しやすい構成になっています。
「補う+巡らせる+上の高ぶりを鎮める」。
この3方向から考えると、七物降下湯の処方意図が理解しやすくなります。
七物降下湯は血圧そのものを下げる薬なの?
ここは非常に重要です。
七物降下湯には高血圧に関する薬理研究もありますが、医療用添付文書では作用機序について「明確ではない」とされています。
したがって、「七物降下湯を飲めば降圧薬と同じように血圧が下がる」と考えるのは適切ではありません。
実際の医療上の効能・効果も、「身体虚弱の傾向のあるものの、高血圧に伴うのぼせ・肩こり・耳鳴り・頭重」とされています。
漢方では、血圧という1つの数値だけを追いかけるのではなく、体質や随伴症状まで含めて処方を考えることが特徴です。
市販薬を購入する場合も、パッケージに記載された体力・症状・用法用量を確認してください。
現在治療中の方や他の漢方薬を服用している方は、購入前に医師・薬剤師へ相談することをおすすめします。
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※使用前に必ず製品の添付文書をご確認ください。
七物降下湯の飲み方と注意点
医療用と一般用医薬品では製品ごとに用法・用量が異なることがあります。
市販薬を使用する場合は、必ず購入した製品に記載されている用法・用量を守ってください。
「証」が合っているかが重要
医療用七物降下湯の添付文書でも、「患者の証(体質・症状)を考慮して投与すること」とされています。
症状や所見の改善がみられない場合には、漫然と継続しないことも重要です。
胃腸がかなり弱い方は注意
著しく胃腸が虚弱な方では、食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢などが現れる可能性があります。
もともと食欲不振や吐き気がある場合には、症状が悪化する可能性もあるため注意が必要です。
他の漢方薬との重複にも注意
漢方薬を複数併用すると、生薬が重複することがあります。
病院の漢方薬、市販の漢方薬、健康食品などを併用している場合は、商品名をまとめて医師・薬剤師へ伝えてください。
妊娠中・授乳中、高齢者
妊娠中、妊娠の可能性がある方、授乳中の方は自己判断で使用せず、医師・薬剤師へ相談してください。
高齢者では身体機能が低下している場合があるため、より慎重な使用が必要になります。
「高血圧+頭痛・めまい」なら七物降下湯とは限らない
漢方では同じ「高血圧」「頭痛」「めまい」であっても、証によって選ばれる処方が変わります。
たとえば、身体が比較的虚弱で、疲れや顔色不良など血虚の傾向を伴う場合には七物降下湯が候補になります。
一方で、体力が比較的しっかりしている人、熱症状が非常に強い人、水分代謝の乱れが目立つ人などでは、別の処方を考える場合があります。
「高血圧だから七物降下湯」という選び方ではなく、「高血圧に伴う症状+虚実・寒熱・気血水の状態」を組み合わせて判断することが基本です。
「七物降下湯と釣藤散のどちらが合うの?」
「降圧薬と一緒に飲んでもいい?」
「めまい・耳鳴り・肩こりもあるけれど、自分の証がわからない」。
そのような場合は、服薬状況まで含めて確認することが大切です。
高血圧を漢方だけで考えない|ほどよい堂の「3本柱」
ほどよい堂では、健康の土台を「栄養・循環・吸収=腸活」の3つから考えています。
① 栄養|細胞をつくる材料を不足させない
身体の細胞は、食べたものを材料として日々入れ替わっています。
血虚傾向がある人では、「カロリーは足りているのに、たんぱく質・良質な脂質・ビタミン・ミネラル・食物繊維などが不足している」という新型栄養失調にも注意したいところです。
魚、肉、卵、大豆製品、野菜、海藻、きのこなどを偏りなく取り入れましょう。
味噌汁や野菜スープを毎日の定番にすると、食材の種類を増やしやすくなります。
② 循環|栄養と酸素を身体の隅々へ届ける
長時間座りっぱなしの生活が続く場合には、無理のない範囲で歩く、こまめに立つ、軽く身体を動かすなどを習慣にしてみましょう。
ただし、血圧が非常に高い場合や心臓・血管の病気がある場合は、運動開始前に主治医へ確認することが大切です。
③ 吸収=腸活|食べるだけでなく、受け取れる身体をつくる
中医学では「脾は後天の本」「脾は気血生化の源」と考えます。
つまり、食べたものをきちんと消化吸収できることが、気血をつくる土台です。
これは現代の腸活にもつながる考え方です。
- プロバイオティクス=発酵食品など、身体に有用な微生物。
- プレバイオティクス=食物繊維など、腸内細菌のエサ。
- バイオジェニックス=腸内細菌がつくる代謝産物など。
味噌、納豆などの発酵食品に加え、海藻、きのこ、豆類、野菜などの発酵性食物繊維を組み合わせるのがおすすめです。
また、「1口30回」を目安によく噛むことは、消化のスタート地点です。
中医学的には、脾胃の負担を減らす小さな養生とも考えられます。
腸内フローラと血圧には関係がある?
腸内細菌叢と血圧との関連については、現在も研究が進められています。
腸内細菌がつくる短鎖脂肪酸などの代謝物と、血圧調節・炎症・代謝との関連が注目されています。
ただし、「乳酸菌を飲めば高血圧が治る」という意味ではありません。
腸活は、降圧薬や医療機関での治療の代替ではなく、食事・運動・睡眠・減塩などを含めた生活習慣づくりの一部として考えるのが適切です。
高血圧対策は「3日・3週間・3か月」で考える
朝と夜に家庭血圧を測り、血圧・脈拍・睡眠・体調を記録してみましょう。
まず「今どうなっているか」を見える化することから始まります。
減塩、よく噛む、野菜・海藻・きのこ・豆類を増やす、無理のない歩行、睡眠時間の確保など、続けられることを1つずつ習慣にしていきます。
家庭血圧の推移、体重、睡眠、疲労感、食生活などを振り返り、治療や養生の方向性を医師・薬剤師と再評価します。
漢方も「飲み続ければよい」ではなく、証や症状の変化を確認しながら見直すことが大切です。
七物降下湯についてよくある質問
高血圧に伴う随伴症状に用いられる漢方薬ですが、一般的な降圧薬と同じ位置づけではありません。
身体虚弱傾向があり、のぼせ・肩こり・耳鳴り・頭重などを伴う人が対象になります。
併用される場合もありますが、現在使用している医薬品や体質によって判断が異なります。
処方薬を自己判断で中止したり、市販の七物降下湯を追加したりせず、医師・薬剤師へ確認してください。
体質や症状、製品によって異なるため一律にはいえません。
添付文書どおりに使用しても改善しない場合は漫然と継続せず、専門家へ相談してください。
いいえ。
七物降下湯は「身体虚弱の傾向」が重要な目安になります。
同じ高血圧でも証によって別の漢方薬が選択されることがあります。
一般用医薬品として販売されている製品があります。
商品ごとに成分量や用法・用量が異なることがあるため、添付文書を確認して使用してください。
まとめ|七物降下湯は「血圧の数字」より「体質と随伴症状」を見る漢方
七物降下湯は、身体虚弱傾向のある方の高血圧に伴う「のぼせ・肩こり・耳鳴り・頭重」などに用いられる漢方薬です。
中医学的には、血虚という不足を土台に、肝陽が上へ偏った「血虚+肝陽上亢・肝陽化風」というイメージで理解すると分かりやすくなります。
だからこそ、「血圧が高いから七物降下湯」と決めるのではなく、疲れやすさ、顔色、ふらつき、のぼせ、耳鳴り、胃腸の状態、服用中の薬などを含めて判断することが大切です。
そして、高血圧管理の中心は家庭血圧の確認、医療機関での治療、減塩、食事、運動、睡眠などです。
漢方はその人の「証」を見極めながら、必要に応じて組み合わせていく選択肢の1つと考えましょう。
同じ「高血圧・頭痛・耳鳴り」でも、気虚・血虚・陰虚・瘀血・痰湿など、背景は人によって異なります。
ほどよい堂では、漢方だけでなく「漢方×薬膳×腸活」の視点から、今の身体で優先したいことを整理します。
相談料は無料です。
「七物降下湯を買う前に一度聞いてみたい」という段階でもお気軽にご利用ください。
※商品リンクにはアフィリエイト広告を含みます。
※高血圧治療中の方は、処方薬を自己判断で中止・変更しないでください。
宮崎県川南町の漢方薬局「ほどよい堂」では、薬剤師・中医薬膳師・薬膳素材専門士の資格をもとに、現代医学と中医学の両面から健康相談を行っています。
漢方薬だけに頼るのではなく、栄養・循環・吸収=腸活を土台とした「漢方×薬膳×腸活」の視点で、体質や生活習慣に合わせた養生をご提案しています。
参考情報
- 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」。
- 日本高血圧学会「血圧に関する大切なお知らせ」。
- PMDA 医療用医薬品添付文書「ツムラ七物降下湯エキス顆粒(医療用)」。
※本記事は一般的な健康情報の提供を目的としています。
※診断や治療の代替を目的とするものではありません。
※持病がある方、治療中の方、妊娠・授乳中の方は、医師・薬剤師等へご相談ください。



コメント
なるほど~勉強になりました。
メッセージありがとうございます。