イライラしたり、焦りが強いひとにおすすめの漢方薬が『抑肝散(よくかんさん)』です。
古典では、小児の夜泣き・ひきつけによく効くという記載があります。
イライラにおいては、傾向として「攻撃的なとき」や「すぐにカッとなるようなとき」に用いると効果のある漢方薬です。
また、臨床では認知症における行動・心理症状(BPSD)の改善に使用されることが多い漢方薬です。
認知症は本人もつらいけど、
進行してくると家族などの周りのひともつらいよね。
夜中に大声を出したりとか、暴力を振るうようになってくると大変ですよね。
今回は、認知症による様々な症状を改善することが出来る漢方薬である『抑肝散』を紹介していきます。
認知症における行動・心理症状(BPSD)とはどのようなものなの?
行動・心理症状(BPSD)とは、周囲の不適切なケアや身体の不調や不快、ストレスや不安などの心理状態が原因となって現れる症状です。
例えば、「怒りっぽくなる」「妄想がある」「意欲がなくなり元気がない」「一人でウロウロと歩き回る」「突然興奮したり、暴言や暴力が見られる」などの症状が表れます。
このような症状が出てしまうと、周りの人が大変だよね。
自分の親から暴力や暴言が発せられたら心が苦しくなりそう…。
【抑肝散】の生薬構成(ツムラ)
当帰(トウキ)、 釣藤鈎(チョウトウコウ)、川芎(センキュウ)、蒼朮(ソウジュツ)、茯苓(ブクリョウ)、柴胡(サイコ)、甘草(カンゾウ)
【抑肝散】の効能効果(ツムラ)
神経症、不眠症、小児夜なき、疳の虫
【抑肝散】の特徴・説明
- 『抑肝散』の名前の由来は「肝を抑える」ということなのですが、中医学でいう「肝」とは解剖学的な肝臓という意味ではなく、古人が色々な説明をするために体系づけられたものです。
「肝」の主なはたらきは「気・血(けつ)・津液(しんえき)」の巡りをコントロールすることです。特に、気と血の巡りに強く関係しています。
「肝」は精神的なストレスの悪影響を受けやすい臓です。
ちなみに、中医学で表現される、五臓の「肝・心・脾・肺・腎」も同様に、古人が色々な説明をするために体系づけられたものと考えるとわかりやすいと思います。
- イライラするような場合に使用する漢方薬の一つに『加味逍遥散』がありますが、『抑肝散』との使い分けは次の通りです。
使い分けの目安は次の通りです。
- 『抑肝散』:攻撃的・易怒性
- 『加味逍遥散』:抑うつ的・心気症
- 『抑肝散』は認知症による暴力的行動・徘徊・神経過敏などの症状を低減させることを目的に使用されることも多くなってきています。
『抑肝散』は認知症の原因である脳自体の萎縮などを改善させるというわけでは無く、認知症によって起きる困った症状を改善する薬と理解してもらえると良いと思います。
- 『抑肝散』は、なかなか治らない「難治性の痛み」にも効果が認められています。 最近では、ペインクリニックなどでも使用されることが多くなっていて、眠くならない神経系の鎮痛補助剤として重宝されています。
- 『抑肝散』は「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」にも効果が認められています。
- 『抑肝散』に「芍薬」を加味することで作用増強を期待できます。
- 『抑肝散』の味は表現法が難しいですが、わずかに甘くて渋いです。
『抑肝散』は「せん妄」と言われる状態を改善する作用が期待できます。
※せん妄とは、時間や場所が急にわからなくなる見当識障害から始まる場合が多く、
注意力や思考力が低下して様々な症状を引き起こします。
通常は継続しても数日間です。
「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」とはどのような状態なの?
『むずむず脚症候群』ってどんな病気なの?
ネーミングはインパクトがあるよね。
『むずむず脚症候群』は名前の通りで、
脚に「むずむずする」などの不快感が起こる病気のことを言います。
また足をじっとさせていられないことから
『レストレスレッグス症候群』と呼ばれることもあります。
『むずむず脚症候群』の特徴として次の4つ症状が代表的です。
【抑肝散】のエビデンス
エビデンスとは、科学的根拠、つまり実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」があることを指します。
- 認知症における行動・心理症状(BPSD)の改善効果が確認された。
【抑肝散】の認知症における行動・心理症状(BPSD)の改善効果の作用機序とは⁉
『抑肝散』は、グルタミン酸神経系、セロトニン神経系に作用して、神経細胞の過剰興奮を抑制し症状を改善していると考えられています。
「セロトニン」とは、『幸せホルモン』と呼ばれる脳内ホルモンで、「ノルアドレナリン(交感神経関与)」や「ドーパミン(快感や多幸感に関与)」と並び、感情や精神面、睡眠など人間の大切な機能に深く関係する三大神経伝達物質の1つです。
グルタミン酸の神経伝達機能と病気との関係とは⁉
人の脳では神経伝達物質として「グルタミン酸」というアミノ酸の一種を利用しているようなのです。
このグルタミン酸は、シナプスに存在するN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)型受容体に結合して受容体を活性化することで、隣の神経に情報を伝えることが出来ます。
神経細胞と神経細胞の接続部を「シナプス」と呼んでいます。
この情報のやり取りが盛んに行われると、シナプスの繋がりが強固になり、記憶や学習をつくると考えられています。
しかし、グルタミン酸による受容体への刺激が弱かったり強すぎたりすると問題が生じてしまうようなのです。
グルタミン酸による刺激が弱く足りない場合は、シナプスは十分な情報を受けることができず、シナプス自体を維持することが難しくなり、「統合失調症(かつては精神分裂病と呼ばれた病気)」の原因の一つになっている可能性が示唆されています。
統合失調症とは、幻聴や幻覚に悩まされ、
抑うつ状態になって社会生活が送れなくなる精神疾患です。
逆に刺激が強すぎる場合は、神経細胞が刺激に耐えられなくなり、細胞自体が死を選ぶことが知られています。これを ”グルタミン酸の興奮毒性” と呼んでいます。
その結果、「アルツハイマー認知症」や、身体が動かなくなってしまう「筋萎縮性側索硬化症(ALS)」という病気を引き起こしてしまうのではないかと考えられている様です。
【抑肝散】のクリニカルパール
クリニカルパール(Clinical pearl)とは、経験豊富な臨床医から得られる格言のようなものです。
レビー小体型認知症の症状の一つである ”幻視” に『抑肝散』が効くことが多いです!
細かく説明すれば、
嫌だと思っていた ”幻視” をすんなりと受け入れることが出来るようになるのです。
(引用:漢方.jp)
レム睡眠障害には『抑肝散』が抜群に即効性がありますね!
(引用:漢方.jp)
『抑肝散』はペインクリニックなどでも使用されることが多くなっていて、
眠くならない神経系の鎮痛補助剤として重宝されています。
(引用:漢方.jp)
『抑肝散』が有効な頭痛のポイントは次の通りです。
- 眼痛
- イライラ
- 背中の張り
”興奮気味で歯ぎしりをよくする・寝相が悪い” ”痒みなどでイライラしている”
などのような交感神経が興奮している様な場合のこどもの睡眠障害には
『抑肝散』、『抑肝散加陳皮半夏』がおすすめです!
(引用:漢方.jp)
夜驚症(やきょうしょう)のこどもには『抑肝散』を使用すると良いことがあります。
※”夜驚症” と”夜泣き” がと大きく違うのは、脳が深い眠りに入っている時に恐怖やパニック に襲われることで、自分では無意識の状態で泣きじゃくることです。
(引用:漢方.jp、中野こどもクリニック)
『抑肝散』は中医学的には ”熄風薬(そくふうやく)” と言われ ”気血両虚の肝陽化風” に用いる漢方薬です。
”熄風” とは陰が不足したために、陽を抑えることが出来ずに起こっている状態である ”内風” を改善するという意味です。
熄風薬に使用される代表的な生薬は ”平肝止痙” の「釣藤鈎(チョウトウコウ)」です。
『抑肝散』は「当帰」で補血して、「川芎」で血行を改善し気をめぐらせ、「蒼朮・茯苓・甘草」で脾を丈夫にして気力を増し、「柴胡・釣藤鈎」で興奮を鎮めて震えや痙攣・めまいを押さえます。
『抑肝散』は気血の不足(肝陰)によって、相対的に ”肝陽” が抑制できずに亢進してしまって ”陰虚陽亢” の場合に使用される漢方薬なのです。
一方で、過度なストレスなどによって ”肝陽” が単独で増えてしまった状態は ”肝陽上亢” と言います。
(引用:がんじゅうふぁみりー)
『抑肝散』と『抑肝散加陳皮半夏』の使い分けは次の通りです。
「陳皮・半夏」には身体の余分な水分を取り除く作用があるとされているため、”陰虚タイプ” の人には『抑肝散加陳皮半夏』は使用を控えた方が良いですね!
陰虚とは血虚に加えてほてりやのぼせがある場合です。
『抑肝散』はストレスに弱く、軽いストレスでも身体が過剰に反応してしまうタイプの人に使用すると良い方剤です。
(引用:がんじゅうふぁみりー)
(整形外科)
神経障害性疼痛には『抑肝散』などの柴胡剤が良いように感じています。
(引用:漢方.jp)
イライラするような状態を「肝が高ぶる」と表現することがありますが、肝が高ぶる原因には、ストレス過剰な状態が続いていたり(気滞)、睡眠不足や過労など血を消耗している状態(血虚)などが挙げられます。
【抑肝散】の注意点
むくみ・体重増加・血圧上昇などが現れた場合は医師・薬剤師に相談するようにしてください。
【抑肝散】の入手方法
- 病院で処方してもらう
- ドラッグストアや楽天・Amazonなどのインターネットで購入できます。
全薬工業からは神経がたかぶり、怒りやすい、イライラ、緊張、不眠などで困っている人に向けて「アロパノールメディカル®」と言う商品名で『抑肝散』が販売されています!
錠剤タイプと内服液(ドリンク)タイプがあります。
『抑肝散』でおすすめの煎じ薬はこちら!
「宮崎県川南町」に位置する「ほどよい堂」において、「薬剤師×中医薬膳師×ペットフーディスト」として、健康相談を行っています。
代表の河邊甲介は、漢方医学、薬膳、そして腸活を組み合わせた独自のアプローチで、個々の健康に寄り添います。
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