甘草(かんぞう)は、多くの漢方処方に配合されている代表的な生薬のひとつです。
「甘草は疲れにいい」「リコリスは体にいい」と聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
ただし、甘草は誰にでも多く摂ればよい素材ではありません。
中医学では体質や使い方によって役割を考え、現代医学ではグリチルリチンによる副作用にも注意が必要です。
この記事では、薬剤師・中医薬膳師の視点から、甘草の特徴、漢方・薬膳での使い方、生甘草と炙甘草の違い、副作用や注意点までわかりやすく整理します。
- 甘草は、多くの漢方処方を支える代表的な生薬です。
- 中医学では「気虚=エネルギー不足タイプ」や「脾虚=消化吸収が弱いタイプ」などで用いられることがあります。
- 生甘草と炙甘草では、中医学的に重視する方向性が異なります。
- 甘草を含む漢方薬・食品・サプリメントの重複には注意が必要です。
- 長期・大量摂取では、偽アルドステロン症や低カリウム血症などに注意します。
甘草(かんぞう・リコリス)とは?
甘草は、マメ科カンゾウ属植物の根やストロンを乾燥させた生薬です。
英語では「Licorice(リコリス)」と呼ばれます。
甘草という名前の通り、大きな特徴のひとつが強い甘みです。
主な成分として、グリチルリチン酸やフラボノイド類などが知られています。
葛根湯、芍薬甘草湯、小柴胡湯、甘麦大棗湯など、さまざまな漢方処方に甘草が配合されています。
漢方では単純に「甘い生薬」として使うのではなく、他の生薬とのバランスを整える役割も重視されています。
甘草の薬膳・中医学データ
中医学では、甘味は「脾」と関係が深いと考えます。
ここでいう脾は、西洋医学の脾臓そのものではなく、食べたものを消化・吸収し、全身を養うエネルギーへ変えていく働きを含む概念です。
ほどよい堂では、この「脾=土」の考え方を現代の胃腸・腸活ともつなげています。
どれだけ良いものを食べても、十分に消化・吸収できなければ、からだをつくる材料として生かしにくくなります。
五味の「甘」は脾・胃を支えると考える
薬膳における五味とは、酸・苦・甘・辛・鹹の5つの性質です。
中医学では、それぞれの味が臓腑と関係すると考えます。
| 五味 | 関係する臓腑 | イメージ |
|---|---|---|
| 酸 | 肝・胆 | 引き締める、漏れを防ぐ方向 |
| 苦 | 心・小腸 | 熱を冷ます、下へ導く方向 |
| 甘 | 脾・胃 | 補う、緊張をゆるめる方向 |
| 辛 | 肺・大腸 | 巡らせる、発散する方向 |
| 鹹 | 腎・膀胱 | 軟らかくする、下へ導く方向 |
ただし、「甘いものをたくさん食べれば脾によい」という意味ではありません。
砂糖や甘い飲料の摂りすぎは、現代栄養学的にも食生活の偏りにつながりやすいため、量と頻度を考えることが大切です。
甘草は「疲れを取る」の?中医学では気虚との関係を考える
甘草について「疲れを取ってくれる生薬」と説明されることがあります。
しかし、疲労があれば誰にでも甘草が適しているわけではありません。
中医学では、疲れやすい、元気が出ない、食後に眠くなる、食欲が安定しない、声に力がないといった状態を「気虚=エネルギー不足タイプ」と考えることがあります。
さらに胃腸が弱く、食べても十分に力になりにくい状態は、「脾気虚=消化吸収の土台が弱っているタイプ」と整理します。
炙甘草は、このような「補う」方向を重視するときに使われる生薬のひとつです。
ただし実際の漢方治療では、疲労だけを見るのではなく、冷え、食欲、便通、睡眠、ストレス、舌や脈などを合わせて「証」を組み立てます。
「疲れ=甘草」と単純化しないことが大切です。
貧血、甲状腺疾患、感染症、睡眠障害、心疾患、腎疾患、薬の副作用などでも疲労感は現れます。
強い疲労が長く続く場合や、息切れ、胸痛、急激な体重変化、著しいむくみなどを伴う場合は、セルフケアだけで済ませず医療機関へ相談してください。
生甘草と炙甘草はどう違う?
甘草には、そのまま用いる「生甘草」と、加工した「炙甘草」があります。
中医学では、加工方法によって重視する働きが変わると考えます。
| 比較 | 生甘草 | 炙甘草 |
|---|---|---|
| 特徴 | 加工していない甘草 | 甘草を加工したもの |
| 中医学的な方向性 | 清熱解毒、緩急、調和などを重視 | 補気、健脾、調和などをより重視 |
| イメージ | 熱や炎症傾向を考える場面など | 疲れや虚弱、脾胃の弱りなどを考える場面 |
同じ「甘草」でも、目的に応じて使い分けるのが中医学の特徴です。
そのため、甘草だけを見て考えるのではなく、現在の体質全体を確認することが重要です。
疲れやすさひとつをとっても、気虚、血虚、陽虚、気滞、痰湿など原因の考え方はさまざまです。
ほどよい堂では、体質から薬膳茶や養生素材を選びやすいように整理しています。
商品ありきではなく、まず「今の自分に何が必要か」を考えてみてください。
甘草を現代医学から見ると?注目されるグリチルリチン
甘草の代表的な成分として知られているのが、グリチルリチン酸です。
甘草の特徴的な甘みに関係する成分でもあり、医薬品分野でも研究・利用されてきました。
一方で、インターネット上では「免疫力を高める」「胃潰瘍を治す」「炎症を治す」など、強い表現を見かけることがあります。
食品として甘草を摂ることと、医薬品として特定の成分を一定量使用することは同じではありません。
健康食品や薬膳素材については、特定の病気への治療効果を期待して自己判断で大量に摂るのではなく、「食生活を整える選択肢のひとつ」として考えるのが現実的です。
最重要|甘草の副作用「偽アルドステロン症」に注意
甘草やグリチルリチンを含む医薬品では、偽アルドステロン症や低カリウム血症が知られています。
甘草を含む漢方薬を複数併用したり、甘草を含む食品・健康食品を重ねたりする場合には、特に注意が必要です。
偽アルドステロン症とは?
偽アルドステロン症とは、血圧を上げるホルモンであるアルドステロンそのものが増えていないにもかかわらず、アルドステロンが過剰なときに似た状態が起こる副作用です。
甘草に含まれるグリチルリチンなどが関与し、カリウムが低下したり、ナトリウムや体液が体内にたまりやすくなったりすることがあります。
注意したいサイン
- 手足のだるさ。
- 筋力の低下や力が抜ける感じ。
- こむら返りや筋肉痛。
- むくみ。
- 急な体重増加。
- 血圧の上昇。
- 手足のしびれやこわばり。
甘草を含む漢方薬や医薬品を使用中にこうした変化を感じた場合は、自己判断で様子を見続けず、医師や薬剤師に相談してください。
特に摂取前に確認してほしい方
- 高血圧を指摘されている方。
- 心臓や腎臓の病気がある方。
- むくみが出やすい方。
- 利尿薬などを使用している方。
- ステロイド薬を使用している方。
- 甘草入りの漢方薬をすでに服用している方。
- 複数の漢方薬や健康食品を併用している方。
- 妊娠中・授乳中の方。
漢方薬では、異なる処方に同じ生薬が含まれていることがあります。
商品名が違っていても甘草が重複している可能性があるため、「何種類飲んでいるか」だけでなく「中身の生薬が重なっていないか」まで確認することが重要です。
薬膳として甘草を取り入れるなら「少量を上手に」
薬膳として甘草を使う場合も、「体によさそうだから濃く煮出して毎日たくさん飲む」という使い方はおすすめしません。
甘草は少量でもしっかり甘みが出る素材です。
薬膳茶やスープへ少量加え、全体の味をまとめるような使い方が取り入れやすいでしょう。
炙甘草+陳皮|食後の一杯に
陳皮は、みかんの皮を乾燥させた薬膳素材です。
中医学では「理気=気の巡りを整える」という方向で用いられます。
甘草の甘みに陳皮の爽やかな香りが加わるため、食後の温かい飲み物にも合わせやすい組み合わせです。
炙甘草+生姜|冷えやすい日の温かい習慣に
生姜は、温かい飲み物や汁物にも取り入れやすい身近な食材です。
冷たい飲み物が多い方は、まず一杯を温かいお茶やスープに置き換えるところから始めてもよいでしょう。
炙甘草+なつめ|やさしい甘みの薬膳茶に
なつめは、薬膳でよく使われる代表的な食材です。
甘い清涼飲料水を日常的に飲んでいる方であれば、温かい薬膳茶へ少しずつ置き換えていく方法もあります。
炙甘草+黒豆|香ばしく飲みやすく
黒豆の香ばしさを組み合わせると、甘草だけの場合とは違った味わいになります。
「体によいから我慢して飲む」のではなく、無理なく続けられる味に整えることも養生では大切です。
疲れやすい人は「甘草だけ」より脾=胃腸の土台を整える
中医学では、食べたものを気・血・津液へ変えて全身へ送り出す土台として「脾」を重視します。
土王説の考え方でも、まず土=脾胃を整えることが全身の養生につながると考えます。
現代的に言い換えれば、「何を摂るか」だけではなく、「食べる・消化する・吸収する」という一連の流れを整えることです。
タンパク質、良質な脂質、ビタミン、ミネラル、食物繊維などを意識します。
まず1つ変えるなら「よく噛む」
特別な健康食品を増やす前に取り入れてほしいのが、よく噛むことです。
目安として一口30回程度を意識すると、食事のスピードがゆっくりになり、唾液分泌や消化の準備にもつながります。
中医学的には、「脾を助けるための最初のひと手間」と考えることができます。
味噌汁・野菜スープを毎日の定番に
胃腸が疲れているときは、冷たい食品や硬い食品ばかりに偏るより、温かい味噌汁や野菜スープなどを活用すると食事を整えやすくなります。
海藻、きのこ、豆類、野菜などを組み合わせれば、プレバイオティクスとなる食物繊維を日常的に取り入れやすくなります。
腸活は「菌を摂る」だけで終わらせない
腸活は、善玉菌そのものを取り入れるプロバイオティクス、善玉菌のエサになるプレバイオティクス、菌が生み出す有用成分を利用するバイオジェニックスという3つの視点で考えると整理しやすくなります。
さらに腸のバリア機能を維持するためには、睡眠、ストレス、食事の偏り、過度な飲酒など、生活全体を見ることも大切です。
「疲れるから補う」が合う人もいれば、「ストレスで巡りが悪い」「湿がたまって重だるい」「血が不足して疲れる」など、別の方向から考えた方がよいケースもあります。
ほどよい堂では、漢方×薬膳×腸活の視点から、体質に合わせた薬膳茶や養生素材を選べます。
こんな疲れ方なら「気虚タイプ」を考えることがあります
中医学でいう気虚は、からだを動かすエネルギーが不足しているような状態です。
- 少し動いただけでも疲れやすい。
- 朝から元気が出にくい。
- 食後にぐったりする。
- 声に力が出にくい。
- 食欲が安定しない。
- 風邪をひきやすいと感じる。
- 胃腸が弱く、食べても体力につながりにくい。
このような状態では、「補気=気を補う」という治則を考えることがあります。
甘草や炙甘草も補気の方向をもつ生薬のひとつですが、実際には人参、黄耆、白朮、大棗など、ほかの素材と組み合わせながら全体の証を整えていきます。
たとえば四君子湯は、胃腸が弱く、食欲低下や疲労感などを伴う「脾気虚」に用いられる代表的な方剤です。
ただし漢方薬は症状名だけで選ぶのではなく、体質や服薬状況も含めて判断することが大切です。
3日・3週間・3ヶ月で考える「ほどよい養生」
からだは、一度整えれば終わりではなく、食事、睡眠、運動、ストレスなどの影響を受けながら常に入れ替わっています。
そのため、「飲んだ翌日にすべて解決するもの」を探すより、続けられる小さな習慣を積み重ねることが大切です。
まず3日|体の反応に気づく
温かい飲み物に変える、よく噛む、味噌汁を付けるなど、まず小さな変化から始めます。
食後の重さ、排便、睡眠、朝の感覚などを観察してみましょう。
3週間|習慣として定着させる
食物繊維、海藻、きのこ、豆類、発酵食品などを「時々食べる健康食品」ではなく、普段の食卓へ組み込んでいきます。
3ヶ月|体質の土台を振り返る
疲れ方、冷え、睡眠、便通、食欲、ストレスなどを振り返り、自分に必要な養生を調整します。
大切なのは、頑張りすぎず続けられる「ほどよい量」を見つけることです。
甘草についてよくある質問
Q.甘草は毎日飲んでも大丈夫ですか?
食品として少量使用する場合でも、濃いものを大量・長期間摂り続けることは避けた方がよいでしょう。
甘草を含む漢方薬や医薬品、健康食品を併用している場合は、特に重複に注意してください。
Q.甘草を飲めば疲れが取れますか?
甘草がすべての疲労に適しているわけではありません。
中医学では、気虚や脾気虚など「補うことが必要なタイプ」で炙甘草などを考える場合がありますが、疲労の原因はさまざまです。
Q.甘草と炙甘草は同じですか?
原料は同じ甘草ですが、加工の有無が異なります。
中医学では、生甘草と炙甘草で重視する働きが異なり、炙甘草では補気や健脾など「補う方向」をより重視します。
Q.漢方薬を飲んでいても甘草茶を飲めますか?
漢方薬には甘草が含まれる処方が多いため、まず服用中の処方内容を確認してください。
重複がわからない場合は、自己判断で追加する前に薬剤師や医師へ相談することをおすすめします。
Q.血圧が高い人でも甘草を使えますか?
甘草に含まれるグリチルリチンは、血圧や体液バランスに影響する可能性があります。
高血圧、心臓病、腎臓病、むくみなどがある方は、使用前に医療者へ相談する方が安心です。
まとめ|甘草は「たくさん摂る」より「体質に合わせて使う」
甘草は、古くから漢方や薬膳で利用されてきた代表的な生薬です。
中医学では、補う、緊張をゆるめる、脾胃を支える、処方全体を調和するといった方向で用いられてきました。
一方で、甘草は「天然だから好きなだけ摂ってよい素材」ではありません。
グリチルリチンによる偽アルドステロン症や低カリウム血症などにも注意が必要です。
特に漢方薬を複数使用している方は、生薬の重複まで確認することが重要です。
そして疲れを整えるうえでは、甘草だけに頼るのではなく、栄養、循環、吸収=腸活の3つを一緒に見直してみてください。
土台となる胃腸が整えば、毎日の食事から気血をつくり、全身へ届ける流れも整えやすくなると考えます。
ほどよい堂は、漢方×薬膳×腸活を組み合わせながら、その人の体質に合った「続けられる養生」を大切にしています。
気虚、血虚、陰虚、陽虚、気滞、瘀血、痰湿、湿熱など、今の状態に合わせて薬膳茶や養生素材を探すことができます。
「何を選べばいいかわからない」という方は、オーダーメイドという選択肢もあります。
参考情報
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 「重篤副作用疾患別対応マニュアル・偽アルドステロン症」。
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA) 各漢方製剤 添付文書・患者向医薬品情報。
- National Center for Complementary and Integrative Health(NCCIH) 「Licorice Root: Usefulness and Safety」。
- 株式会社ツムラ 生薬辞典「甘草」。



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