百合根(ゆりね)は、ほくほくとした食感とやさしい甘みを楽しめる食材です。
日本ではおせち料理や茶碗蒸しなどで親しまれていますが、中医学や薬膳では「百合(びゃくごう)」として、乾燥やほてりなどの「陰虚(いんきょ=潤い不足タイプ)」を考えるときにも登場します。
とくに、のどや肌の乾燥が気になる、夜になるとほてりやすい、気持ちが落ち着きにくい、といったときの食養生に取り入れられてきました。
ただし、薬膳で伝えられてきた働きと、現代医学で確認されている治療効果は同じではありません。
この記事では、百合根の栄養、中医学での考え方、おすすめの食べ合わせ、簡単な薬膳レシピ、注意点まで、現代栄養学と中医学の両面からわかりやすく解説します。
百合根(ゆりね)とは?食用のゆり根と生薬「百合」の違い
百合根とは、ユリの「根」そのものではなく、地下にある鱗茎(りんけい)と呼ばれる部分を食用にしたものです。
鱗片が何枚も重なった姿から、昔から縁起のよい食材としても親しまれてきました。
日本で食用として流通しているゆり根には、主に食用向けに栽培されたユリ類が利用されています。
国産ゆり根の大部分は北海道で生産されており、秋から冬にかけて旬を迎える季節食材です。
日本薬局方で「百合(ビャクゴウ)」と呼ばれる生薬は、オニユリなど特定のユリ属植物の鱗片葉を、通常は蒸して調製したものです。
スーパーなどで販売される食用ゆり根と、生薬として規格化された百合は、用途・基原植物・加工法などを分けて考える必要があります。
この記事では、日常の食卓で楽しむ「食用の百合根」を中心にしながら、中医学で伝えられてきた百合の考え方もあわせて紹介します。
百合根の栄養|食物繊維とカリウムを含むほくほく野菜
百合根は、でんぷん質を含むため、加熱するとほくほくとした食感になります。
一方で、食物繊維やカリウムなども含むのが特徴です。
文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」によると、生のゆり根100gには次のような栄養素が含まれています。
| 栄養成分 | 生100gあたり | 食事での見方 |
|---|---|---|
| エネルギー | 119kcal | でんぷん質を含み、エネルギー源にもなる食材です。 |
| たんぱく質 | 3.8g | 主なタンパク源というより、主食・野菜を補う食材として考えます。 |
| 食物繊維 | 5.4g | 毎日の腸内環境を支える食事の一部として取り入れやすい量です。 |
| カリウム | 740mg | 体内のミネラルバランスに関わります。腎機能が低下している方は摂取量に注意が必要です。 |
| 葉酸 | 77μg | 赤血球形成などに関わるビタミンです。 |
| ビタミンC | 9mg | 抗酸化やコラーゲン形成などに関わります。 |
※数値は可食部100gあたりの標準的な値です。品種、産地、調理方法などによって変動します。
百合根と腸活|「食べる」だけでなく、吸収できる土台づくりを
百合根には食物繊維が含まれます。
ただし、腸活は「ある食品を一つ食べれば完成」というものではありません。
ほどよい堂では、腸内環境を考えるときに、善玉菌を取り入れるプロバイオティクス、菌のエサとなる食物繊維などのプレバイオティクス、菌がつくる有用成分を活用するバイオジェニックスを組み合わせて考えています。
百合根だけに偏らず、海藻、きのこ、豆類、発酵食品、野菜などを組み合わせることが大切です。
毎日の定番として、具だくさんの味噌汁や野菜スープに取り入れると続けやすくなります。
中医学でみる百合根|「陰虚=潤い不足タイプ」をやさしく養う食材
中医学では、からだの状態を「気・血・津液」や「陰陽」、「五臓」などのバランスから考えます。
百合は伝統的に、体に必要な潤いである「陰」を養い、肺を潤し、心を穏やかにする方向の素材として扱われてきました。
| 薬膳での名称 | 百合(びゃくごう) |
|---|---|
| 体質の目安 | 陰虚=からだの潤いが不足しやすいタイプ |
| 性味 | 甘・微寒などとして扱われます。 |
| 関係する臓腑 | 主に心・肺 |
| 伝統的な考え方 | 養陰潤肺、清心安神など。潤いを養い、心身を穏やかに整えるイメージです。 |
※上記は中医学・薬膳における伝統的な位置づけであり、特定の疾患に対する治療効果を示すものではありません。
こんな状態は「陰虚タイプ」のサインかもしれません
ただし、同じ「イライラ」「眠れない」という症状でも、原因が「気滞=気の巡りが滞るタイプ」の場合もあれば、「血虚=血の不足タイプ」「陰虚=潤い不足タイプ」の場合もあります。
中医学で大切なのは、症状だけで食材を決めるのではなく、「なぜその症状が起きているのか」という証を組み立てることです。
ほどよい堂では、気虚・気滞・血虚・瘀血・陰虚・陽虚・痰湿・湿熱の8タイプから、今の自分に合う薬膳茶を試せるセットをご用意しています。
最初から一つに決めつけず、味や香りも含めて自分に合う一杯を探したい方におすすめです。
百合根が向いている人・控えめにしたい人
百合根を取り入れやすいタイプ
薬膳では、次のような「乾燥・潤い不足」が気になるときに百合根を食養生へ取り入れる考え方があります。
- 空気が乾燥する秋から冬。
- 肌や唇の乾燥が気になる。
- 口やのどが乾きやすい。
- 夕方から夜にほてりを感じやすい。
- 忙しく、心まで乾いているように感じる。
- 温かくやさしい食事で休養時間をつくりたい。
冷え・下痢・胃腸虚弱が強い人は食べ方を工夫
百合は中医学ではやや身体を冷ます方向の素材として扱われます。
そのため、冷えが強い「陽虚=温める力が不足したタイプ」や、胃腸が弱く下痢しやすい「脾虚=消化吸収力が弱いタイプ」では、大量に食べるよりも、温かく調理して少量から試す方が向いています。
例えば、生姜、ねぎ、味噌、鶏肉などと組み合わせ、スープや味噌汁として温かく食べると、脾胃への負担を抑えながら取り入れやすくなります。
どれほど体によいと言われる食材でも、胃腸で消化・吸収できなければ十分に活かせません。
中医学では、食べ物から「気・血」をつくる中心を「脾=土」と考えます。
よく噛むことも大切な養生です。
目安として一口30回ほど噛み、食べ物を小さくし、唾液とよく混ぜることで、消化のスタートを助けます。
百合根とおすすめの食べ合わせ|薬膳は「組み合わせ」で考える
薬膳では、一つの食材だけで何とかしようとするのではなく、その人の体質や季節に合わせて組み合わせを変えていきます。
百合根+梨|乾燥する季節の潤い薬膳
梨は薬膳では、肺を潤し、乾燥する季節に取り入れられる代表的な果物です。
百合根と組み合わせることで、秋から冬の「乾燥が気になる季節」に使いやすい組み合わせになります。
ただし、梨も身体を冷ます方向に働くと考えられるため、冷えや胃腸虚弱が気になる方は、生食よりも温かいスープやコンポートにすると取り入れやすくなります。
百合根+蓮の実|心と脾をいたわりたいときに
蓮の実は、薬膳では「脾」を補いながら心を穏やかにする方向の素材として利用されます。
百合根と組み合わせることで、忙しさやストレスが続き、胃腸も心も休まりにくいときの食養生に取り入れやすくなります。
百合根+白きくらげ|「潤い」を食卓から補う
白きくらげは、中医学で「潤い」を養う食材としてよく使われます。
百合根と白きくらげを温かいスープにすると、乾燥しやすい季節にも食べやすい組み合わせです。
百合根+味噌・きのこ|腸活まで考えた毎日の一杯
特別な薬膳料理を毎日つくる必要はありません。
百合根を、きのこ、海藻、豆腐などと一緒に味噌汁へ加えるだけでも立派な食養生になります。
発酵食品である味噌、食物繊維を含むきのこ・海藻・豆類を組み合わせることで、「食べる栄養」と「吸収する腸」の両方を意識できます。
食事だけでなく、毎日続けやすいお茶から体質に合わせた養生を取り入れる方法もあります。
ほどよい堂の「陰虚茶」は、潤い不足タイプを考えてブレンドした体質別薬膳茶です。
※疾病の治療を目的とした商品ではありません。体質や服薬状況によって適不適があります。
百合根を使った簡単薬膳レシピ3選
1.百合根と白きくらげのやさしい潤いスープ
- 百合根。
- 白きくらげ。
- 鶏肉または鶏ひき肉。
- 長ねぎ。
- 生姜少々。
- 塩または薄口しょうゆ。
白きくらげを水で戻し、鶏肉、生姜と一緒に煮込みます。
百合根は火が通りやすいため、仕上げの少し前に加え、ほくっとした食感が残る程度まで煮ます。
「潤したいけれど身体は冷やしたくない」という方は、生姜や鶏肉を少し加えることでバランスを取りやすくなります。
2.百合根と蓮の実のおかゆ
白米または玄米に、下処理した百合根と蓮の実を加えて、やわらかく炊きます。
胃腸が疲れているときは、玄米よりも消化しやすい白米のおかゆから始めても構いません。
「健康によいから」と消化力以上に玄米や食物繊維を増やすのではなく、その日の胃腸に合わせることが大切です。
3.百合根・きのこ・豆腐の味噌汁
ほどよい堂で特におすすめしたいのが、毎日の味噌汁に百合根を加える方法です。
百合根、しめじや舞茸、豆腐、わかめなどを組み合わせれば、食物繊維、ミネラル、発酵食品を一杯の汁物から取り入れられます。
「薬膳を特別な料理にしない」。
これが長く続けるコツです。
百合根の下処理と保存方法
下処理は一枚ずつはがして洗う
百合根は外側から鱗片を一枚ずつはがし、土や汚れをやさしく洗い流します。
傷んでいる部分や褐色になった部分があれば取り除きます。
加熱しすぎると崩れやすいため、茶碗蒸しや汁物では仕上げに近いタイミングで加えると、ほくっとした食感を残しやすくなります。
乾燥を避けて冷暗所・冷蔵保存
未開封でおがくずに入っている百合根は、乾燥を避けながら涼しい場所で保存します。
おがくずがない場合は、新聞紙やキッチンペーパーなどで包み、ポリ袋へ入れて冷蔵庫の野菜室で保存すると扱いやすくなります。
洗った後は傷みやすくなるため、できるだけ早めに使い切りましょう。
百合根を食べるときの注意点
腎機能が低下している方はカリウム量に注意
百合根はカリウムを比較的多く含む食品です。
腎機能が低下している方や、医師からカリウム制限を指示されている方は、自己判断で大量に食べず、医師や管理栄養士などに確認してください。
胃腸が弱い方は「少量+温かく」から
食物繊維が多い食材は、体調によってはお腹の張りや消化不良につながる場合があります。
胃腸が弱っているときは、やわらかく加熱し、少量から様子を見るのがおすすめです。
はちみつと組み合わせる場合、1歳未満の乳児には与えない
百合根とはちみつを組み合わせるレシピもありますが、1歳未満の乳児には乳児ボツリヌス症予防のため、はちみつを与えてはいけません。
ユリ属の植物は猫にとって非常に危険です。
FDA(米国食品医薬品局)は、ユリの花、葉、茎、花粉などを猫が摂取すると、重篤な腎障害につながる可能性があると注意喚起しています。
「人が食べられる食材だから猫にも安全」とは考えず、百合根を含めユリ属植物を猫に与えないでください。
誤食が疑われる場合は、症状を待たず、早急に動物病院へ相談してください。
百合根と「不安・イライラ・眠り」の関係は?
中医学では、百合は「心」にも関わり、伝統的に「清心安神(せいしんあんじん)」、つまり熱感や心のざわつきを穏やかに整える方向の素材として利用されてきました。
一方、現代研究ではユリ属植物に含まれる多糖類やサポニンなどさまざまな成分について研究が進められていますが、基礎研究や動物研究を含むものが多く、食品として百合根を食べるだけで「不安症や不眠症が治る」と判断できる段階ではありません。
そのため、百合根は医薬品の代わりではなく、日々の食事や休養を整えるための食養生の一つとして考えるのが適切です。
ストレスが強いときは「休養」も一緒に設計する
イライラや眠りの浅さは、食事だけでなく、仕事、人間関係、情報過多、睡眠不足など複数のストレスが重なって生じることがあります。
温かい薬膳スープやお茶を飲む時間そのものを休養として考え、スマートフォンから少し離れる、深く呼吸する、軽く歩く、湯船につかるなど、複数の休養法を組み合わせてみてください。
ほどよい堂の養生|「栄養・循環・吸収」の3本柱で考える
百合根を食べることも養生の一つですが、身体は一つの食材だけでつくられているわけではありません。
養生は一日で結論を出すのではなく、身体の変化を少し長い目で見ることも大切です。
3日:食後の重さ、便通、睡眠など、小さな体感を観察する。
3週間:よく噛む、汁物をとる、お茶を飲むなどの習慣が続いているか確認する。
3か月:食事・運動・休養を含め、生活全体を振り返る。
完璧を目指すより、「続けられることを一つ増やす」ことが養生の基本です。
乾燥、ほてり、疲れ、冷え、むくみ、眠り、ストレスなどは、一つの体質だけで説明できないことも少なくありません。
ほどよい堂のオーダーメイド薬膳茶では、問診内容をもとに、薬剤師・中医薬膳師・薬膳素材専門士が「気・血・水」と「五臓」のバランスを整理し、その方に合わせた薬膳茶をご提案しています。
「陰虚茶でよいのかわからない」「複数の体質が当てはまる」という方は、最初から一つのタイプに決めず、体質全体から考える方法があります。
百合根についてよくある質問
Q.百合根は毎日食べてもよいですか?
食品として適量を食事に取り入れる範囲であれば、特別に毎日避けなければならない食材ではありません。
ただし、一つの食材に偏らず、野菜、海藻、きのこ、豆、魚、肉などを幅広く食べることをおすすめします。
Q.百合根を食べれば不眠や不安が改善しますか?
中医学では心を穏やかにする方向の食養生として利用されてきましたが、百合根を食べることで不眠症や不安症を治療できると断定できる十分な臨床根拠はありません。
症状が長く続く、日常生活へ影響している場合は、医療機関への相談も大切です。
Q.百合根は陰虚タイプなら必ず合いますか?
必ずしもそうではありません。
陰虚の傾向があっても、同時に脾虚、陽虚、痰湿など別の体質が重なっていることがあります。
中医学では、一つの症状だけでなく、冷え・ほてり、便通、睡眠、舌、食欲、ストレスなどを合わせて「証」を考えます。
Q.百合根はダイエット中でも食べられますか?
食べられます。
ただし百合根はでんぷん質を含むため、「ほぼカロリーのない野菜」と考えるのではなく、ご飯やいも類なども含めた食事全体のバランスで考えましょう。
まとめ|百合根は「潤す食養生」として上手に取り入れよう
百合根は、ほくほくした食感を楽しみながら、食物繊維やカリウムなどを摂ることのできる食材です。
中医学では、主に「心・肺」と関係し、陰を養い、肺を潤し、心を穏やかにする方向の素材として伝統的に使われてきました。
とくに、乾燥やほてりが気になる「陰虚=潤い不足タイプ」を考えるときに取り入れやすい食材ですが、冷えや胃腸虚弱が強い方では、温かく調理して少量から始めるなどの工夫が必要です。
養生で大切なのは、「百合根を食べれば大丈夫」と考えるのではなく、食事全体、腸での吸収、血の巡り、睡眠、運動、休養まで含めて整えることです。
旬の食材をおいしく食べ、よく噛み、温かい汁物を一杯。
まずはそんな小さな一歩から始めてみてください。
ほどよい堂 代表 河邊甲介
薬剤師・中医薬膳師・薬膳素材専門士・ペットフーディスト。
西洋医学の知識と、中医学・薬膳・腸活の考え方を組み合わせ、「栄養・循環・吸収=腸活」の3本柱から、日常生活で無理なく続けられる養生をご提案しています。
宮崎県川南町の漢方薬局「ほどよい堂」にて、店頭・オンラインで漢方相談、薬膳茶、腸活相談などに対応しています。
参考資料
・文部科学省「食品成分データベース 野菜類/ゆりね/りん茎/生」
https://fooddb.mext.go.jp/
・国立医薬品食品衛生研究所「日本薬局方名称データベース/ビャクゴウ」
https://jpdb.nihs.go.jp/
・Zhou J, et al. Genus Lilium: A review on traditional uses, phytochemistry and pharmacology. Journal of Ethnopharmacology. 2021.
PubMed
・U.S. Food and Drug Administration「Lovely Lilies and Curious Cats: A Dangerous Combination」
FDA
本記事は、食品・薬膳・中医学に関する一般的な情報提供を目的としています。
病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。
症状が強い場合、長期間続く場合、治療中の疾患がある場合、妊娠・授乳中、薬を服用中の場合などは、医師・薬剤師などの医療専門職へご相談ください。



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