漢方薬は、古来より様々な症状や不調に対する治療に用いられてきました。
その中でも、胃腸の不調や消化器系のトラブルに効果があるとされるのが『半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)』です。
この漢方薬は、「半夏(はんげ)、「黄芩」、「黄連」」など、様々な生薬を組み合わせて調合されており、胃腸の不快感や吐き気、食欲不振などに効果が期待されています。
胃腸の働きを整え、消化を促進する作用があります。
特に、ストレスや食生活の乱れなどが原因で生じる胃腸の不調に対して、穏やかかつ効果的な治療を提供します。
この記事では、半夏瀉心湯の効能や使用方法、注意点について詳しく解説し、胃腸の不調に悩む方々に有益な情報を提供します。
漢方薬の古い知恵と現代の科学が結びつき、より健康な生活をサポートする一助となるでしょう。
消化不良、胃下垂、下痢、軟便、二日酔い、胸やけ、口内炎などにおすすめの漢方薬が『半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)』です。
みぞおち付近が使えているような感じが続いていて、お腹の調子が良くないときに何か良い漢方薬はあるのかな?
ストレスも重なっていて、お腹の症状が出ている様なときには『半夏瀉心湯』という漢方薬がおすすめです。
二日酔い、胸やけ、口内炎などにも効果があるので一度試してみてください!
【半夏瀉心湯】の生薬構成(ツムラ)
半夏(ハンゲ)、黄芩(オウゴン)、乾姜(カンキョウ)、人参(ニンジン)、甘草(カンゾウ)、大棗(タイソウ)、黄連(オウレン)
【半夏瀉心湯】の効能効果(ツムラ)
みぞおちがつかえ、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って軟便または下痢の傾向のあるものの次の諸症
胃腸カタル、醗酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔、げっぷ、胸やけ、口内炎、神経症
【半夏瀉心湯】の特徴・説明
- 『半夏瀉心湯』は生薬構成においては、「黄芩」、「黄連」の組み合わせにより ”瀉心湯類” と呼ばれます。
古典的には ”心下痞硬(しんかひこう)” と呼ばれ、胸やみぞおちにつかえ感がある人に用いられる方剤です。
- 『半夏瀉心湯』を口内炎に使用する際は、白湯に溶かした後、冷えてから口腔にしばらく含んでから飲み込むと効果がよいとされています。
- 『半夏瀉心湯』の味は表現法が難しいですが、わずかに甘くて辛いです。
東洋医学的な「腹診」とはどのようなものなの?
腹診とは、「四診」の中では「切診」に含まれる診察方法です。
漢方の古典『傷寒論』にも一部その記載があるようですが、日本では、江戸時代の漢方医によって診断方法が構築されました。
西洋医学的な腹部の診察では膝を曲げて横になるのですが、これは腹部の筋肉の緊張を少なくして、腹部の内臓を触知しやすくするためです。
一方、漢方では腹部の筋肉の緊張状態も大事な所見となりますので、膝は伸ばしたまま診察します。
胃腸の健康維持に不可欠!寒熱を和解する半夏瀉心湯のパワーに迫る
『半夏瀉心湯』は、「寒熱互結之痞」証(かんねつごけつのひしょう)を改善する漢方処方です。
寒熱互結とは、寒気と熱気が結びついている状態を指し、心下部で脾胃の昇降機能が失調した際に痞証が生じます。
痞証とは、胃腸が詰まって通じなくなる状態を指します。
通常、脾気は上昇し、胃気は下降するのが正常ですが、脾気が下降し胃気が上昇すると脾胃の調和が乱れ、胃腸の諸症状が生じます。
これを「脾胃不和」といいます。
半夏瀉心湯は、この脾胃不和証を改善する処方と言えます。
寒熱互結の熱は、胃熱や心熱として表れ、胃腸の炎症や自律神経系の興奮と関連しています。
寒邪は食習慣などによって生じ、胃腸が冷えて胃平滑筋が緊張し、蠕動が失調してガスが停滞する状態をもたらします。
一般的な症状には、上腹部のつかえや膨満感が見られ、胃の存在を感じる人もいます。
また、胃気の逆流による嘔吐や悪心、吃逆(しゃっくり)、食欲不振が起こり、舌苔はべっとりと厚くやや黄色い傾向があります。
半夏瀉心湯の「心」には、みぞおちの周辺を表わす「心下」の「心」と、メンタル面を表わす「心」という意味があり、「瀉」には「取り除く」という意味があります。
つまり、「瀉心」は両方の「心」を同時に改善するという働きを表わしています。
これが半夏瀉心湯の特徴であり、胃腸の不調だけでなく、心身のバランスも整える効果が期待されます。
【半夏瀉心湯】のエビデンス
エビデンスとは、科学的根拠、つまり実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」があることを指します。
- 抗がん剤のひとつである「イリノテカン」における副作用の酷い下痢などに効果が認められています。
『半夏瀉心湯』は「イリノテカン」を投与する数日前から服用することが推奨されています。
ただ、下痢が起こってからの服用でも有効との報告もあります。
(引用文献:坂田優・塩酸イリノテカンの下痢に対する半夏瀉心湯の臨床効果)
イリノテカンとは
イリノテカンは、肺がん、子宮頸がん、卵巣がん、胃がん、大腸がん、乳がん、有棘細胞がん、悪性リンパ腫、小児悪性固形腫瘍、膵臓がんなどの癌治療に使用される抗がん剤です。
しかし、使用には注意が必要であり、副作用が発生する可能性があります。
イリノテカンの主な副作用には、骨髄機能抑制が挙げられます。
この副作用には、発熱、寒気、のどの痛み、口内の白斑、出血傾向、下痢、腹痛、口内炎、疲労感、動悸、息切れ、顔色の悪さなどが含まれます。
また、重度の感染症や敗血症、肺炎、播種性血管内凝固症候群(DIC)などの深刻な合併症も起こる可能性があります。
その他、下痢、腸炎、腸管穿孔、消化管出血、腸閉塞、間質性肺炎などの副作用も報告されています。
これらの副作用の発現には個人差があり、使用中に不快な症状が現れた場合は速やかに医師に報告し、適切な対処を受けることが重要です。
副作用 | 主な症状 |
---|---|
骨髄機能抑制 | 発熱、寒気、のどの痛み、口内の白斑、手足の赤い点やあざ、出血傾向、下痢、腹痛、口内炎、だるさ、動悸、息切れ、顔色の悪さなど。 |
重度の感染症 | かぜのような症状、だるさ、発熱、嘔吐など。 |
敗血症 | 寒気、高熱、関節痛、筋肉痛など。 |
肺炎 | 発熱、悪寒、咳、息切れ、痰など。 |
播種性血管内凝固症候群(DIC) | めまい、頭痛、鼻血、白目の黄変、耳鳴り、歯ぐきの出血、息切れ、動悸、青あざ、紫色のあざ、皮膚の黄変、尿の黄変など。 |
その他の副作用 | 下痢、腸炎、腸管穿孔、消化管出血、腸閉塞、間質性肺炎など。 |
がん治療中の口内炎
がん治療中の患者さんにとって口内炎は頻繁に発生する症状であり、抗がん剤による口内炎は特に以下の特徴があります。
- 強い痛み:
口内炎が小さくても非常に痛みます。これは抗がん剤の影響で口内の粘膜が傷つき、炎症が起こるためです。 - 免疫力低下による増悪:
抗がん剤治療によって免疫力が低下するため、口内における細菌の増殖が促進され、口内炎の増悪を引き起こすことがあります。 - 食事が困難に:
口内炎によって口の中が痛むため、食事が難しくなります。これにより栄養摂取が不足し、体重の減少やQOLの低下につながる可能性があります。
がん治療中の患者さんの口内炎は広範囲にわたることがあり、食欲低下や痛みによる栄養不足など、患者のQOLや体力維持に影響を与えます。
そこで、口内炎を早期に治療し、食事摂取を促進することが重要です。
『半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)』は、口内炎の治療に効果的であるとされています。
この漢方薬に含まれる生薬の中には、口内炎の原因となるプロスタグランジンの産生を抑制する作用や、口内の細胞修復を促進する作用があることが研究によって示されています。
特に、「黄芩」・「黄連」などの生薬が口内炎の症状を軽減し、食事摂取を助けることが期待されます。
口内炎の緩和に効果的!半夏瀉心湯のうがいの効果とは?
半夏瀉心湯は、口内炎の治療に効果的な漢方薬として知られています。
この漢方薬を水に溶かしてうがい薬として使用することで、口内炎の症状の軽減が期待されます。
うがい薬として使用する場合、水に溶かす方法や使用量には個人差がありますが、通常は飲用と同様の方法で行われます。
抗がん剤治療による嘔気がある場合や、苦味を嫌う場合は、うがいの後に吐き出すことも可能です。
半夏瀉心湯のうがいに関する臨床試験では、半夏瀉心湯を使用したグループとプラセボ薬を使用したグループの比較が行われました。
この試験では、口内炎の発症頻度には変化は見られませんでしたが、半夏瀉心湯を使用したグループでは口内炎の治癒期間が約半分に短縮されることが示されました。
このように、半夏瀉心湯をうがい薬として使用することで、口内炎の症状の緩和や治癒期間の短縮が期待されます。
しかし、個々の症状や体質によって効果が異なる場合がありますので、使用前には医師や専門家に相談することが重要です。
【半夏瀉心湯】のクリニカルパール
クリニカルパール(Clinical pearl)とは、経験豊富な臨床医から得られる格言のようなものです。
舌の状態を見て、”舌苔が黄色い場合(黄苔舌)” は『半夏瀉心湯』が良く効くと思ってもらってもよいです。
『半夏瀉心湯』と『小柴胡湯』は構成生薬が類似していてその差は「黄連」と「柴胡」の違いと言っても良いくらいです。
『半夏瀉心湯』は胃もたれ感が強い時、『小柴胡湯』は胸脇苦満が強い場合が使用の目安になります。
消化器系の漢方薬は ”甘い” ものが多いのですが、例外的に『半夏瀉心湯』は「黄連」によって苦みがある方剤になります。
『半夏瀉心湯』と『六君子湯』の使い分けは、”冷えの有無“ です!冷えが認められるような時は『六君子湯』が使用の目安になります。
『半夏瀉心湯(表)』と『六君子湯(裏)』は裏表の関係と言えます。
『半夏瀉心湯』に含まれている「黄連」が寒薬であるため、冷えがある場合はお勧めできないのです。
(引用:漢方.jp)
口内炎の場合には、白湯に溶かして口の中に含んで(うがい)した後に、そのまま服用すると良いと思います。
(引用:漢方.jp)
鼻前庭炎(鼻の入口に近い部分が炎症を起こした状態のこと)に『半夏瀉心湯』が効くことを稲葉博司先生に教えてもらい実際に処方したら効果を実感しました。
その他に、しゃっくりにも効果が期待できます。
”抗HER2療法” は乳がんの再発を防ぐのに、非常に効果が高い治療法ですが、下痢をすることがあります。
そのような場合には『半夏瀉心湯』を使用すると良いことが多いです。
※HER2(ハーツー)とは、がん細胞の増殖に関係するタンパク質です。
(引用:漢方.jp)
アフタ性の口内炎に『半夏瀉心湯』を少量のお湯に溶かして口に含んでうがいをすると最初の1分間くらいはすごくしみて痛いのですが、1分間我慢しておくと次第に痛みが取れてきます。
また、口内炎の治りも早くなります。
(引用:漢方.jp)
『半夏瀉心湯』は単独でも下痢によく効きますが、さらに『半夏瀉心湯+真武湯(=断痢湯)』は今まで、下痢に100発100中です。
(引用:漢方.jp)
逆流性食道炎には『半夏瀉心湯』に『加味逍遥散』を合わせるとより効果が期待できます。
(引用:漢方.jp)
口腔内細菌叢浄化目的で瀉心湯類である『半夏瀉心湯』が良いと考えています。
『半夏瀉心湯』でうがいをして服用することで、食道をはじめとした粘膜層に対する細菌叢を改善してくれているように感じています。
また、口臭の予防にもなりますね!
(引用:漢方.jp)
結膜下出血を繰り返している患者に『半夏瀉心湯』を処方(3年間)したところ、数回軽度の結膜下出血は起こりましたが、その後再発することはありませんでした。
その他、結膜下出血に対して『黄連解毒湯』・『葛根黄連黄芩湯』・『甘草瀉心湯』も有効例がありました。
(出典:東洋医学雑誌・再発性眼科疾患に対する漢方治療の有用性.2011)
結膜下出血を分かりやすく解説してくれている動画がありましたので紹介しますね!
『半夏瀉心湯』は中医学的には ”脾胃不和(ひいふわ)” と言われる状態に使用漢方薬です。
脾胃不和の代表的な症状には次のようなものが挙げられます。
- 悪心・嘔吐・しゃっくり・上腹部の膨満感などの胃気上逆(気逆)に腹鳴・下痢を伴う
『半夏瀉心湯』は構成生薬の「半夏+乾姜」によって悪心・嘔吐を改善するのです。
ストレスによって胃が不調になっている ”胃気上逆(気逆)” の専門薬が『半夏瀉心湯』なのです。
『半夏瀉心湯』を使用する際に注意すべきポイントがあります!
『半夏瀉心湯』は乾燥させる作用が強いために ”胃陰虚” の悪心・嘔吐には使用を避けなければなりません!
”胃陰虚” の悪心・嘔吐には潤いを与える『麦門冬湯』を使用します。
(引用:がんじゅうふぁみりー)
ストレスが原因で逆流性食道炎が起きてしまっている様な時には気滞を改善する『加味逍遥散』と『半夏瀉心湯』を併用すると良いですね!
(引用:がんじゅうふぁみりー)
【半夏瀉心湯】の注意点
むくみ・体重増加・血圧上昇などが現れた場合は医師・薬剤師に相談するようにしてください。
【半夏瀉心湯】の入手方法
- 病院で処方してもらう
- ドラッグストアや楽天・Amazonなどのインターネットで購入できます。
「宮崎県川南町」に位置する「ほどよい堂」において、「薬剤師×中医薬膳師×ペットフーディスト」として、健康相談を行っています。
代表の河邊甲介は、漢方医学、薬膳、そして腸活を組み合わせた独自のアプローチで、個々の健康に寄り添います。
漢方相談や薬膳に関するオンライン相談も提供し、遠方の方々も利用できます。
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